Beyond Native Speakers (8) 英語は上達できなくて当たり前?

更新日 : 2014年11月24日

第二言語習得とは

 

私たちの会社Q-Leapの講師は全員TESOL (Teachers of English to Speakers of Other languages)という英語教授法の修士を持っています。このTESOL修士のプログラムは大学によっても内容が多少違いますが、その大きな中心はSecond Language Aquisition (SLA)です。日本語で第二言語習得と呼ばれていますが、主に大人になってから外国語を習得したり使用したりすることに関する学問です。TESOLのコースではより狭義に「英語を母国語としない人」に英語をどう教えるのがもっとも効果的(または非効果的)かをSLA理論や他の周辺分野から学びます。

 

第二言語習得は言語学、応用言語学、認知心理学、脳科学、社会学、文化人類学など多くの既存の学問分野と深い接点を持ちながらもまだ半世紀ほどしか歴史の無い比較的新しい学問分野です。皆さんが「え?!」と驚かれる前提に基づいた学問なのですが、それは

 

「大人になってからの外国語習得(第二言語習得)は

子どもの母語習得(第一言語習得)に比べるとほとんど例外なく失敗に終わる

 

というものです。なんともスタートから一気に落ち込んでしまいそうな前提ではありますが、第一言語習得のレベルが成功であるとすると第二言語習得はほぼ例外なく失敗に終わる、というのはほとんどの方の学習経験とも一致するのではないでしょうか。これには多くの複雑な要素が関係しており、何かひとつが理由というわけではありません。第一言語習得に比べ、第二言語習得では個人個人の置かれた環境や条件もさまざまであり、さらには脳の中という見えないBlack Box内で起こっている事象ですので実験で証明するのもとても大変です。

 

では何のためにこの学問があるのか。
第二言語習得という学問分野が確立される以前はもちろん、今もそうであることが多いと思いますが、教師は多くの場合、自分の経験則で生徒を教えているのではないかと思います。「自分はこのやり方で成功したからあなたたちもやればできるようになりますよ」というアプローチです。しかし、現実には学習者のプロファイルには実に多様なバリエーションがあり、一部の人に上手くいった方法が他の人たちにも効果的かどうかは全く保証がありません。そこで第二言語の習得や使用といった認知活動を学問的に仮説と実験を繰り返しながら研究し、私たちの言語習得のメカニズムを科学的に明らかにしていくのがこの分野の研究者の仕事です。

 

ちょっと堅い話になってしまいましたが、なかなか上手くいかない第二言語習得をどうやったらより成功させられるのか、ということを考えている学問分野だと思って頂ければ良いと思います。私たちのケースで言えば、なかなか上手くいかない日本人の英語学習をどうしたらより効率的かつ効果的に教え、また学んでもらえるのか考え実践するための学問分野だといえるでしょう。

IMG_5325

 

修士過程での勉強中、ある本を読んでいて私は自分がいつも無意識にやっているスピーキングの練習方法に気づきました。その事はその本を読むまでは意識もしていなかったことでした。それはVygotsky (ヴィゴツキー)というロシア人の社会心理学者の書いた“Thought and Language”という本で、幼い子どもがどうやって言語を通じて外界を自分のものとして内側に取り込んで行くかということが説明されていました。彼はそこでInner Speechという誰のためでもない自分に向かって発せられる言語に注目しています。子どもがよく遊びながら一心不乱に、そして物事を確認するように一人で話している場面に遭遇された方は多いと思います。あの発話行為こそがまだ完全に自分と一体化していない外界を言語を通して自分の中に取り入れるためのプロセスだと書いています。

 

“To study an internal process, it is necessary to externalize it

experimentally, by connecting it with some outer activity;

only then is objective functional analysis possible.”

(Vygotsky, L. Thought and Language, The MIT Press, 1986, pp.226-227)

 

私はそれまでずっと無意識に「自分が上手く発話できなかった表現」や「使ってみたいけど口から出て来ない表現」や「誰かが使っていて真似してみたいあの表現」などをヒマがあれば他の作業をしながら。。。例えばシャンプーしながら、ドライヤーかけながら、洗濯物干ながら、お料理しながら。。。experimentallyにexternalizeしていました。そしてそれは幼い子どもが未知の外界を内側に入れようとする時と同じで、私も未知の表現をなんとか自分のものにしようとinner speechを使っていたのでした。この私の自分に対する考察はもしかしたら学問的には的外れなのかもしれませんが、ヴィゴツキーのこの本を読んで雷に打たれたような気持になったのは事実です。「自分のやっていたことには理由があったんだ!!」と知るのは素晴らしい事でした。あまりにも感動して自分の修論のトピックはこのInner Speechになりましたが、リサーチがあまりなくペーパーをまとめるのがとっても大変でしたToo Sad

 

そのようなわけで、自分が今まで学習者の立場で通って来た道、遭遇した問題、自分がやって上手くいった学習方法、そして現在も学習者であり続けている事からの経験を大事にしていますが、それだけでは教えるには全く足りないと感じています。さまざまなプロファイルの学習者の方達と関わる時、自分の経験だけでは全く太刀打ち出来ません。そんな時、TESOLで学んだ理論、さまざまな研究者による実験、研究結果などからアイディアを得たり、解決策を見出したりすることができます。また、自分が教える内容、そしてその教える順番や方法にも理論の裏付けがあることによって自信を持って教える事ができます。

 

私たちの会社のクライアントさんは大人の方ばかりです。大人の学習者の場合、すでに英語学習の経験がありますし、すでにご自分なりの学習方法をある程度確立されている方も多いです。そのような場合、私たちのご提案する学習方法に納得して頂けない限り学習のスピードは上がらないでしょう。大人は認知力が子どもに比べて高いので一旦受け入れて頂ければ学習進度は一気に加速します。そのためにも理論の裏付けがあってお話しできるのとそうでないのとでは説得力に違いが出ます。私はクラスの前に必ず「なぜこれをやるのか。どうしてこの順番なのか。これをやることによってどのような効果が期待出来るのか」ということを学習者の方に納得していただいてから授業をするようにしています。

今、忙しくてなかなかゆっくりとペーパーを読んだりする時間が取れないのですが、自分たちのティーチングの向上のためにもできる限りTESOLの最新の研究を把握していきたいと思っています。

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+
The following two tabs change content below.
浅場 眞紀子

浅場 眞紀子

代表取締役Q-Leap
慶應義塾大学卒 コロンビア大学ティーチャーズカレッジ英語教授法(TESOL) 修士号取得 米穀物メジャーCargill, 石油メジャーBPの外資2社に計10年トレーダーとして勤務。その間ChicagoとNYに3年駐在。 現在企業のエクゼクティブ担当として数多くのプライベートレッスンを手がけている。 その他大学、専門学校でTOEIC SW クラス、TOEIC公開講座などを担当中。 2014年 ビジネス英語研修会社 Q-Leap 設立

コメントをどうぞ

CONTACT PAGETOP