May 3rd, 2016

ついに教える  文法一からやり直し


皆さんは「英語のやり直し」というと真っ先に何をイメージしますか?

ほとんどの方が文法のやり直しをイメージするのではないかと思います。1級を取った後、2年もNHK国際研修室で学んでも、私は何か今一つ「きちんと進歩した」気がしていませんでした。原因は多分、自分の文法知識が危ういことを知っていたからだと思います。文法にけっこう穴があっても1級くらいまでは取れてしまうんですよね。

NHK国際研修室に通った2年間はまさに受け身で学び倒した毎日でしたが、ただ自分のためだけに学んでいました。この時点でも私は「人様に英語を教える」なんて全く考えたこともありませんでした。昔から教師になるなど想像もしていなかったので、当然大学でも教員免許などは取っていませんでした。学び続けて2年ほど経ったころ、うっすら「このまま勉強を続けてどうするのかな?」と考えることはありましたが、自分の子どもたちもまだ幼稚園児、小学生、さらにに中学受験生、でしたから、そもそも仕事をするという環境でもありませんでした。

塾の先生になる

そんな時、偶然お話する機会があった大学の先輩から、「私の経営する塾を少し手伝ってくれないか」というお誘いを受けました。塾の最寄り駅が自宅から地下鉄で10分程度だったこと、夕方2時間ほど教えるだけだったこと、などから「やってみようかな」と本当に軽い気持ちでお引き受けしたのですが、このことが私の人生を大きく変えてしまいました。この塾は特定の私立校に通う生徒さんだけを対象にしていて、いわゆる口コミだけで生徒さんがやってくる塾でした。日本の私立女子校でもトップクラスの学校の生徒さんが来る塾だったので、文法ゆるゆるの私はさあ大変!!

Progress in English

 

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みなさん、プログレスという教科書をご存知ですか?学校で使っていたという方も多いと思います。一時、私立中高にとって「うちはプログレスを使っています」というのが受験生の保護者への売りになるほど一世を風靡した教科書です。私も中学の3年間この教科書を使っていました。扱う文法要素が非常に多いのと、リーディングの量が多いのとで、普通の学校では1年で1冊はなかなか終わらない、と言われていた教科書です。イエズス会の神父様が作られたテキストで、それゆえに最初カトリック系の学校で使われ始めました。米語、英語を分けて扱い、さらにその中でアメリカとイギリスの歴史的な出来事や、文化的背景として知っておくべき内容がリーディングになっているので、私はとても好きな教科書です。中高6年用に1~6巻まであるのですが、6冊全部最後までやる学校は私の知っている限り当時でも2校のみでした。そしてその1校の生徒がその塾の生徒さんたちでした。この教科書を1年で1冊終わらせるには先生のレベルも生徒のレベルもかなり高くないと難しいです。

私はこちらの塾で計6年ほどお世話になったのですが、そんなわけでこのプログレスを1~6の隅々まで網羅することになりました。自分が学ぶ側にいるのと教える側に立つのとでは同じ英語でも全く違うレベルで理解しなくてはいけないということに気づいたのもこの時が初めてでした。優秀な生徒さんが出してくる質問は「あ、そこ。。。」と毎回きちんと準備したつもりでも冷や汗が出るような質問でした。さらに私にとって高地トレーニングだったのは、なんと、この教科書、収録されているエクササイズに教師用の答えもマニュアルもついていないのです。つまり、教科書内に大量にある問題の答えは全て教師が正解を用意しなくてはなりません。塾側から模範解答例は渡されましたが、自分でもしっかり解いて自分なりに解答を出してから突き合わせる必要もありましたし、また生徒が学校で異なった解答を教えられてきた場合、それをその場で解説しなくてはなりませんでした。

私は最初から生徒には「教師はなんでも知っていると思うかもしれないけれど、そんなことはない。知らないことがたくさんあるので、疑問に思ったら質問してください。私がその場で答えられないことははっきり 「わからない」というので、時間をくれればきちんと調べて後日お返事します。」と伝えてありました。本のレベルが上がるにつれ、お持ち帰りの私の宿題も増えましたが、それはとても素晴らしいことでした。 答えの無い教科書と生徒たちからの意外な質問とを抱えて、私自身様々なグラマー本に当たって調べるようになりました。本当に基本的な文法事項でも、どんどん調べると面白いこともたくさんあり、文法は苦手で嫌いだったのですが、だんだんと興味を持って調べるようになっていました。

生徒たちは大量に表現を習って覚えても、口語と文語の区別がほとんどわかっていなかったので、一通り文法事項を学習した後に発話練習をしっかり入れることで口語と文語の差を教えたりもしました。彼女たちを教えた6年間は私にとって本当に「中学英文法ゼロからのやり直し」の毎日でした。私はよく、知識というのは魚とりの網みたいなものだ、と生徒たちに話していました。知識が粗ければ大きな魚(問題)を取り逃がしてしまう、でも網が細かければたくさんの魚(問題)を取ることができますよ、と。そしてその網を細かくする(知識を確実にする)のは意識の持ち方だということも教えました。それこそまさに自分がこの6年をかけてやっていたことそのものだったからです。

 

教えることを教えてもらいに

初めて自分の生徒を持って2年ほど経ったとき、「この子たちにとってもっと良い教え方をするにはどうしたらいいんだろう」「自分は教えるということについて何も知らない」という思いがとても強くなり、自宅から最も近かったコロンビア大学ティーチャーズカレッジ東京校の門を叩きました。大学院に通うようになってからは週末学校で習ったことを平日の塾のクラスで実践し、その結果をまた週末の大学院のクラスに持ち帰る、という生活をしていました。塾でいただいたお月謝はすべて大学院の学費に消えましたが、今でも最高の使い方だったと思っています。大学院ではまた違った視点から文法というものを学ぶ機会を与えられました。The Grammar Book, 通称 Blue Bookは第二言語習得を学ばれた殆どの方が手にしたことがある教科書ではないでしょうか。私は日本のトップ私立中高の過度ともいえるグラマー偏重の授業をサポートする、という立場で塾で教えたことによって自分に力をつけることもできましたし、また同時に「これを習ってどうするんだろう」というような疑問も多く持つようになりました。個人的には一律にすべての文法事項をすべての生徒(特に高校レベル・受験レベル)に教えるべきではない、と考えています。

私の提案

みなさんの中に、「文法やり直してみたいけど一人ではちょっと億劫だな」と思っている方がいたら、少人数のグループを作って教え合う、という方法をお勧めします。自分が学ぶということと、他人に教える、ということの間には深い溝があるのですが、自ら学ぶ力をつけるには人に教えることが一番だと思います。なぜ3人称単数にSをつけるのか、自分の言葉で説明できますか?中学1年の文法でも自分の言葉で説明できるかできないかは確信度の違い、魚とりの網の目の大きさの違いになります。周りのお仲間とグループを作って、週1でも月1でも担当を決めてお互い授業をして質問し合う、そんな環境が作れればゼロからのやり直しもかなり楽しみながらできると思いますよ!

そんな時間はない、という方の場合は文法のルールを取り出して自分で自分に説明してください。例えば、私はTOEICのPart5を時間内に正確に解く力をつけてもらうために、20問なり40問なりをまず解いてもらった後、正解がわかっている状態でタイマーで測りながら全問の解説を声に出して時間内にやっていただく、というトレーニングをやります。文法問題はある程度パターンが決まっていますので、既習問題を使っての口頭説明が速くなってくると、実際に初見の問題を解くときのスピードも上がってきます。パターン認識が自動化されてくるからです。囲碁や将棋で次の一手を決めるのと同じですね。企業の新入社員研修でその効果は証明済みですので、TOEICに限らず、文法を口頭で説明する練習、是非やってみてください。

文法は言葉の骨格、語彙は筋肉です。骨格がしっかりしてくると、できることが増え、応用力が高くなります。いつからでもやり直しは可能です(私は40過ぎてからです!)。

 

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