音声学習とストレッチ


音声学習=ストレッチ
最近ストレッチを始めました。
長時間同じ姿勢で仕事をしていることが多く、体がかなり化石化しているのを感じていたところ、ある日腰痛が。。。
生まれてこの方、腰痛とは無縁だった私が臀部から腿裏にかけて痺れと痛みを感じ、かなり不安になっていたところ、たまたまお世話になっている方から「きっと気が合うから僕の行ってるストレッチのトレーナーさんのところに行ってみたら?」とタイムリーなお話が。
そうして始めたストレッチなのですが、トレーナーの方に施術していただきながらお話して思うのはストレッチ=音声学習、音声学習=ストレッチだなあ、ということです。
トレーナーさんについてストレッチをするということは、つまり
① 自分では意識していなかった問題点を指摘され、その改善への道筋を示してもらえる。
② 他人の手を借りることで自分では不可能な可動域を動かしてみることができる。
③ 科学的知識に基づいた説明(なぜそれをするのか、するとどのようないいことがあるのか)を受けることができる。
ということです。
これは私たちが提供している発音のトレーニングで言えば、アセスメント(発話評価)やレッスンを通し、「ちゃんとできてる」と受講者ご自身は思っていらしたことの中に問題があることをお伝えし、そこを改善してひとつ上のレベルに進んで頂くための道筋を示し、その上で今まで出したことのなかった音を出したことの無い範囲まで出していただき、音声学や第二言語習得に基づいた説明(なぜその音を直すべきなのか、直したらどのような「いいこと?」があるのか)をお伝えしているのと全く同じです。
大事なのは Raise Awareness 意識のレベルを上げること。
音を客観的にとらえるのは実は大変難しいことです。特に大人になって文字を学び、文字ベースで音を扱うことに慣れてしまうと、耳から聞こえてきた音をそのまま受け取っていない自分に気づくことすら難しいです。音は耳から聞こえてそのまま口から出せるわけではなく、1回脳を通りますので、そこで様々に手が加えられてしまっているのですが、そこは自分の頭の中で自動的・習慣的にやっているので気づきません。ご自身の声を録音してみれば少しはわかると思いますが、分かったところで正しい音へどう近づけたらよいのかわからなければどうしようもありません。
ストレッチでは何が正しいポジションなのか教えてもらえるので、自宅で自己トレする際には教えてもらった正しいポジションをしっかり守ってストレッチをします。そうでないと体を痛めてしまいますからね。
発音も一緒です。まずは正しい位置を学ぶこと、正しい息(Aspiration)の使い方を学ぶこと、そして自己練習する際にはそれをしっかり確認しながら練習することです。急がずに、ゆっくりとポジションを正しく調えてから発話練習するのがコツです。
語学学習に限らず、人間のスキルの上達には常にFluency (流暢さ)とAccuracy (正確さ)という相反する要素が必要です。Fluencyを優先するとAccuracy が落ち、Accuracyを優先するとFluencyが落ちるのが普通です。正確に、スムーズにある行為を行うためには、それ以前にFluencyとAccuracyを分けてしっかり練習する時間が必要です。
発音もストレッチも、正しい位置を確認し、急がずゆっくり正確な練習を積み、ある程度正確にできるようになったらFluency (スピードや回数)を上げていく、というのが正しいアプローチです。正しいポジションが出来ていないのに急いでやってしまうと結局間違ったものを何度も練習することになってしまいます。
言語の場合は、Fluency重視で細かい間違いは気にしないで発話を続ける練習も必要ですので、AccuracyとFluencyの両方の練習を意識してバランスよく取り入れると良いでしょう。
最後にもうひとつストレッチと英語学習の共通点を上げます。それは自己学習なくして上達無し、ということです。
トレーナーや講師に週に1回教えてもらうだけで、全く自己トレーニングをしなければ、1週間後は確実に元の状態(化石状態)に戻っています。筋肉は元の固さに、発音も元の間違ったものに、綺麗に戻ります。どちらも自己トレーニングを少しずつ習慣化することが大事ですね。
著者について

浅場 眞紀子
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