話題の映画・テレビシリーズにスクールサイコロジストとして思う


いきなり第二回で少し暗い話をしてしまうかもしれません。皆さんは、
13 Reasons Why という映画をご存知ですか。原作は2007年出版、テレビシリーズにもなっている話題の作品です。この映画とそれにまつわる英語表現を紹介します。
私は現在、カリフォルニア州サンディエゴエリアでSchool Psychologistとして勤務していますが、学年末も近い今、問題を抱えた生徒、心配する保護者も多く、毎日その対応に追われています。その中で、私の担当するある自殺願望のある高校二年生の娘を持った母親(養母)の心配と、話題作である上述の話が重なって、ちょっとした思いにとらわれています。
この娘さん、スポーツ万能、社交的で友達も多く、長く付き合っている彼もいる。明るくて素直、勉強もそこそこ、先生たちにも好かれ、愛に溢れた養父母がおり、兄弟とも仲良くできる。プロフィールを聞くと、バラ色の高校生。ところが問題も多く、浮き沈みが激しく、特定の理由もないのにリストカットや自殺未遂をして写真をSNSに投稿し、周囲を混乱させてしまう。
映画の中の高校生も、華のある人気者的な人物でしたが亡くなってからその理由に携わった友人たちにテープを送り、その理由が一つ一つ明らかになっていく、というのがだいたいの筋書きです。ミステリー調でキャスティングやプロットのもっていき方などがポジティブに評価され人気の作品ですが、職業柄思うことが多々。。。
まず、上述のSNSなどを利用して話題をさらう点が一致しており、ご時世を反映してか現実世界とはかけ離れたところでの生徒同士のやりとりなど、バーチャルな別世界が描かれます。また、映画ゆえに美化され、あたかもその行為がcoolであるかのように描かれ、性的描写やfoul language(悪態など)も含まれているので、とても中高生にはお勧めできないと感じました。関係してるのかどうか、高校生を巻き込んだshooting事件も最近発生しているので、メンタルヘルスに関わる自身としては看過できない作品となってしまいました。私が実際に担当する生徒とこの映画の主人公の、心の奥底で共通する思いとは。。。他人に認められたい、注目を浴びたい、世の中に自分の苦しみを知らしめたい、という承認欲求ではないでしょうか。人間誰しもこの欲求が満たされないと苦しくなります。上述の生徒のこの傾向が強まったのは、中学生のころに判明した「両親は実の両親ではなく養父母である」という事実でした。
さて、このように私の胸の内をよぎった感想にまつわる言葉をいくつか紹介します。
backfiring
きらびやかな世界をいとも簡単に作り出せるバーチャルな世界が、現実世界に逆の負の効果をもたらしている。本当は良い影響を目指して作られたのに逆効果を与える現象をbackfiringと言います。
glamorize
「物事を誇大に描く、美化する」は glamorize です。辞書にはto make (something) seem glamorous or desirable, especially spuriously so.とあります。無駄に美化された世界に憧れ真似するteenagersがいてもおかしくないくらい、dramaticです。
need for approval, approval desire, desire for recognition, esteem needs
これらは全て心理学用語である「承認欲求」と訳せます。人間は他者を認識する能力が身につくにつれ「誰かから認められたい」という感情、つまり自分が集団から価値ある存在と認められ、尊重されることを求める欲求が高まります。日常会話でも知的に使える言葉として知っておくと便利ですね。さらに掘り下げて、Abraham Maslowの階層説を知っていると一目置かれそうです。
このような紹介あまりありがたくないかもしれませんが、最近の話題の作品を取り上げてみました。どこの国でも中高生が流行の先端をゆくのは同じ、このシリーズを流行英語の勉強として観るのはオススメです! 確かに面白いミステリーとの評価も多々あるのです。現実のケースとダブらせて評価してしまうのは、職業病ですね。
ご意見お待ちしています。
カリフォルニアからお伝えする【Real English】シリーズその他の記事
・感嘆の言葉 ~カリフォルニア州国立公園にて~
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池田 真依子
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