Beyond Native Speakers (7) Shaken, not stirred


英語の発音ってなんで綴り通りじゃないの?
というところで英語学習の難しさに「う〜ん」となってしまう方も多いのではないでしょうか?特に学生時代、なんとか単語を覚えようとローマ字読みで綴りを覚えてしまった場合は直すのが大変ですよね。実際に聞こえる音とかけ離れた音で単語を覚えている場合、リスニングで音と意味を一致させて判別するのが非常に難しくなります。頭の中には知識として入っている単語なのに、音と結びついていないために全く使えない知識になってしまっているとしたらなんという損失!!!でも日本人学習者にはとても多い現象です。Geoff先生は「日本人の英語学習に致命的なのはローマ字を習う事だ」と耳にタコができるくらい毎回のレッスンで言及します。
おお、そういえば明日の夜はまたGeoff 先生のレッスンです。
Geoff先生には私の発音も直して頂いているのですが、同じ教師ということでその時のレッスンによっては「日本人学習者にどうやって発音を教えるか」ということにたくさん時間を割くときもあります。たまに2人で考えてその場で新しいやり方を見つけたりもしています。私は自分が日本人だから「日本人にはここが難しい」と身を以て伝える事ができます。Geoff先生は「Phoneticianの仕事は自分の天職。一番自分にとって簡単な仕事。」(そ〜なんだ!!??簡単とか言ってみたいわ。。。)だと仰るだけあってBritish-Americanのスイッチもオートマティックだし、フランス語もできるし、ヒンディー語についても語れる。。。というマルチなお方です。
言語とは音と語順である
先日参加させて頂いたセミナーで「言語とは音と語順である」というお話を伺いましたが、正にその通りだと思います。逆にこの2つをしっかり入れてあげることができれば言語の立派な基礎を作って上げられる事になるのだろうと思い私のスピーキングのクラスでは発音記号も含めた発音指導を毎回しつこくやっています。
今教えている学生さん達でABCの所謂フォニックス読みを知っている人は本当に少数です。全員が「エービーシーディー♬」と歌うことができます。が、それって文字の名前を読んでいるだけで発音そのものじゃないですよね。発音する音の方で読んだら「ア、ブ、クッ、ドウ 、、」というお経みたいな。。「一体それな〜に??」という代物です。でもaからzまで正確に読むのは口の形や息の出し方を意識的に変えて行かないといけないので結構大変なのです。授業でやるとみんな「変〜〜!!!」と笑いながらももの珍しさか、結構真剣に練習してくれます。
abcdefgあたりまではまあそんなに難しくないのですが、
hijで「さて、hの文字の単独の音だしてみて」というと大抵みんな「???」になります。「息だけ思いっきり口開けて出して〜」と言うと「ハッ!」「ハッ!」と教室中で息を掛け合って大騒ぎになります。。。でも、「じゃあそのまま ‘hot’ って発音してみて」というとみんな見事に素敵な英語らしい発音になっています。ここでもはや出来た感いっぱいです。
しかし、その先に進んだところで lmn の鬼門が。。。「ぎゃ〜〜どこにどうするんだっけ〜〜口の中??」というパニックが起きがちですが、そこはこちらも「待っていました。間違えてくれてありがとう。ここが練習のポイントよ〜」とlateral, bilabial, nasal, などの指導ができます。その後で連続してポジションに気をつけて音を出してもらうので顔の筋トレには最高ですね。英語教師をやっていて何がお得って毎日小顔体操を無意識に継続できることでしょうか(まあ実際小顔かどうかは??ですが。。しないよりはいいに違いないです)。
そうして最後のvwxyz になる頃にはみんなヘンチクリンな音にも平気になっていて元気いっぱい。いつも小声の学生達も「ヴッ!ウワッ!クス!」と獣のように結構大胆に音を出してくれます。来週はこれにゲームも入れて練習してみようかと思っています。
フォニックス読みを練習すると、明らかにローマ字読みから離れた日本語には無い「息だけ」の音や「口内器官を摺り合わせるだけ」の音やらを意識的に出して行くので「あ〜〜英語って日本語とは全く違う音で出来ているんだ」と実感してもらえるようです。最初はゆっくり、意識して口の形や息の出し方を整えながら一文字一文字練習し、少しずつスピードを上げても口がついて行くように反復しながら速度を上げて行きます。これを授業で毎回やる事で「英語の音」に対する意識を高められるかな、と思います。日本の義務教育でも最初にフォニックス教えてくれればみんな後から苦労しないで済むのに、と思います。音声学を英語の教職免許を取るための必修にして頂くのが一番良いかと思います。
Shaken, not stirred
ところで、”Shaken, not stirred.” とはあのジェームズ・ボンド様が映画のそこかしこでマティーニを頼む時に必ずつける注文で、まあこれにレモンピールがどうしたこうした。。。なんて注文も加わったりしながら、もはや英語圏では使い古されちゃった、くらいに有名な台詞です。このstirred (混ぜる)という単語の音、私、学生時代はずっと「スティア〜」だとばっかり思っていたんですよね。これを読まれていて「え?違うの??」と思われた方は下のYouTube見てみてくださいね。ボンド様の口から出る”Shaken, not stirred.”ではなんと言っているでしょう。
なぜこんな事思い出したかと言うと、今日イギリス人とメールしてて私が相手がビックリするような事を言ったものだから向こうが
“Stunned, not shaken.”
と言って来たのに対して
“Keep it calm. Shaken, not stirred.”
と返したところで「あ、この単語そういえばスティア〜ってずっと思ってたなあ」とふと思い出したのでした。
この”shaken, not stirred.” は今ではいろいろな意味に使われていて、それこそ単にマティーニの作り方からスラング的な意味までその場と状況で様々な意味を持つようなのですが、イアン・フレミングの原作では竜の心臓になぞらえてかなり深い意味を持たせていたという説もあります。一般的にはものすごく動揺するようなことが起きたけれどそれに対して精神的に全く無関心な様子 ‘accidie’ = sloth, apathy、つまり「超ヤバい事が起きているけど、まあ落ち着いてマティーニでも飲んでまったりしようぜ」的な??感じでしょうか。
映画の台詞もいろいろ覚えると会話のそこここに使えて楽しいですよね。これ覚えるとBarに行って飲めないのにマティーニ頼んじゃいそうですね
“Shaken, not stirred.” って。皆さんもお洒落なバーのカウンターに座って試してみてくださいね。
著者について

浅場 眞紀子
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