聖書と英語 (1) – Apple –


これを書いている今から10日後に日本のコロンビア大学TESOL修士コースの最後の卒業式が東京で行われる予定です。コロンビア大のTESOL修士コースは日本において四半世紀もの歴史があったのですが、諸事情で昨年の8月に日本から撤退してしまいました。でもまだ修士論文を終えていない生徒さんが多数いらしたのでここ1年半くらいの間に修士論文を提出していただき、無事TESOL修士の資格を取られた方達を祝う最後の卒業式を行います。これからは日本校の卒業生は増えませんので横の繋がりを強めて行く事が同窓会の役割になります。自分が卒業した学校がなくなってしまうのは本当に寂しいことですね。
それはさておき、今日はちょっと発音から離れて違う目線からのお話です。
< Columbia Teachers Collegeとマスコットのリンゴ>
英語にはいろいろなリンゴが登場するような気がします。エデンの園でアダムとイブが食べてしまったリンゴに始まり、ニュートンのリンゴ、New York Cityの象徴としてのリンゴ、Apple社、、、諺もいろいろありますね。
私が参加した2012年のコロンビア大学の卒業式では各学部の卒業生に学部オリジナルのマスコットが配られました。式のクライマックスで各学部長が学長に向かってユーモアいっぱいに「こんなにみんな勉強頑張ったからなんとか学生達を卒業させてやって下さい」と懇願するスピーチがあります。そして「卒業を認める」と学長からアナウンスがあると映画のシーンでもお馴染みかと思いますが、大歓声と共に皆で一斉にマスコットやら帽子やらを空中に投げるわけです(私はもったいなくてマスコットは投げないで持ち帰りました!!)。
私の卒業したTeachers Collegeのマスコットのリンゴは「知恵の象徴」として、また「New York市の象徴 = The Big Apple」として良く知られています。そういう意味ではNew York Cityにあるコロンビア大学の、それもTeachers Collegeのマスコットとしてこれ以上ふさわしいものはないかもしれません。
英語と聖書には切っても切れないほどの深い文化的、歴史的繋がりがあります。聖書の逸話を知っていれば知っているほど英語を学ぶ楽しみも増えていくと思います。中高生の頃には「なぜこんなことやるのかしら」と思っていたミッションスクールでの宗教の時間が大人になってこんな風に様々な場面で生きて来るとはその当時あまり想像していませんでした。でも「言葉は文化である」ということを考える時、聖書を知らずに英語は語れない、と思います。
聖書には様々な食べ物が出てきますが、実はアダムとイブのリンゴはリンゴとして登場するわけではないのです。様々な絵画でイブが蛇にそそのかされてリンゴを手にしている図柄を見る事がありますが、実は聖書自体には「善悪を知る木」のfruitである、としか書かれていません。なぜただのfruitが「禁断の果実」appleになってしまったのか。一説によるとラテン語のmalus (悪)とmalus (リンゴの木)が似ていたからだそうです。リンゴが知恵の象徴だというのもこの創世記のアダムとイブの話が始まりです。
New YorkがなぜBig Appleと呼ばれているかについては諸説あるのですが、今一番一般的なものは1920年代に新聞記者のJ.Fitzgeraldが最初にNew YorkをBig Appleと呼び始めたからという説です。当時はNew Yorkの近郊には競馬場が多くあり、それらをappleと呼んでいたということですが、なんだか理由としてわかったようなわからないような話です。
Appleにちなむ英語には他にもいろいろあります。
Apple polisher(リンゴを磨く人)といえば「おべっか」「ごますり」を使う人の事ですね。
Adam’s apple (喉仏):創世記のアダムは林檎を食べた時に林檎がのどにつかえ、ビックリしてしまったのですが、それがそのまま残ってしまったのが喉仏、Adam’s apple ということのようです。
the apple in one’s eye (非常に大切にしている人、もの):日本語でも「目に入れても痛くない」と言いますが、英語では「〜の目の中のリンゴ」という言い方をします。She is the apple in her grand father’s eye.
皆さんにとって目の中に入れても痛くないリンゴのような存在の人は誰でしょうか。
______ is the apple in my eye.
どこかで使ってみてくださいね。
著者について

浅場 眞紀子
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