人はなぜ眠るか? Why do we sleep?

更新日 : 2019年7月11日

去年の10月から始めた私のブログも今回で最終回。今月は、忙しい日本の皆さんに是非知っていただきたい、栄養学から考える「人はなぜ眠るか?」をお届けします。
眠るという行為は眠気を取り除くためだけではなく、脳や臓器が栄養素を使って生き続けるために不可欠な生命活動なのです。

ノンレム睡眠 / Non-REM Sleep
睡眠は、N1、N2、N3の3つのノンレム睡眠とレム睡眠(REM Sleep)で構成されます。N1ステージは、うとうとしている状態、N2ステージは浅い眠り、そしてN3ステージが深い眠りです。深い眠りに入ると脳波はゆっくりと大きくなり、全ての脳細胞がそれを使って遠距離通信(long distance communication)を始めます。
脳は昼間の出来事を評価し(reflect)、時系列をつけて(keep chronology straight)カタログ化した記憶のファイルを作り、脳内全てに行き渡る大きな波長に乗せて長期記憶(long-term memory)の貯蔵場所へと送ります。

N3ステージでは、心拍数が遅くなり、血圧の低下、呼吸も深く遅くなり、運動ニューロンの停止で一時的に身体は動かなくなります(turn off motor neurons, causing temporary paralysis)。
この状態はメンテナンスの絶好のチャンス、成長ホルモン(growth hormone)が分泌され、食べ物から得た栄養素(nutrients)を使って脳細胞を含む全身の細胞内で修復と再生が起こります。免疫力が活性化し、NK細胞(Natural Killer Cell)という免疫細胞が全身をパトロールして、癌化した細胞を見つけて殺します。

レム睡眠 / Rapid Eye Movement Sleep
眠り出してから90分頃に短いレム睡眠が現れます。レム睡眠というと眼球が急速に動き、鮮明な夢を見ることで知られていますが、実はもっとすごいのです。
レム睡眠時には、脳は覚醒時よりも30%程度活性化し、記憶の統括(integration)を始めます。例えば、古い記憶と新しい記憶をつなげて意味づけを行い、より正確なモデルを作って問題処理能力(problem solving ability)を高め、次の事態に備えるのです。

ノンレム睡眠とレム睡眠のどちらも不可欠 /
Both Non-REM Sleep and REM Sleep are Essential
ノンレム睡眠とレム睡眠で構成される約90分の睡眠サイクルは、一晩で4−5回繰り返されます。睡眠半ばまでに深い眠りのN3ステージが集中し、後半は長くなったレム睡眠が集中します。このことが同じ睡眠不足でも、早く起きるか遅く寝るかで違う影響をもたらします。

例えば、毎晩11時に寝て朝7時に起きる習慣がある人が、何らかの理由で朝5時に起きなければならない場合、単純に考えると2時間の睡眠を失うだけのようですが、実際には、後半に集中するレム睡眠の60−70%を失うため思考力が低下します。逆に飲み会で遅くなり、夜中の1時に寝て朝7時に起きると、同じ6時間睡眠でも、前半に集中するN3ノンレム睡眠の大半を失うことになり、免疫力の低下、発ガン率の上昇、高血糖、高血圧、心肺機能の低下が起こります。

脳の清掃 / Clear  Out the Trash from Brain
深く眠るN3ステージでは、脳脊髄液(cerebrospinal fluid)が早く流れ、脳に溜まった老廃物(detritus)や、アミロイドベータ(amyloid beta)などのアルツハイマー病(Alzheimer’s disease)に関与するタンパク質を脳から洗い流すことがわかっています。逆に、認知機能(cognitive function)に問題のない高齢者でも、N3ノンレム睡眠が不足するとアルツハイマー症の予兆が観察されたことから、睡眠不足が認知症の1原因であると考えられています。

睡眠と栄養 / Sleep and Nutrition
動物は眠らないと死にます。睡眠なしには消化吸収能力は低下、体脂肪が増え、免疫力がおちます。逆に、十分な睡眠をとっていても、炭水化物ばかりの食事をしていると、睡眠サイクルが阻害されて必要な睡眠効果が得られません。睡眠不足は、腸内微生物構成を変化させ、便秘だけではなく感情や食欲にも影響します。細胞の修復や再生が遅延して、リーキーガットから食物アレルギーや自己免疫症の危険性が発生します。つまり、睡眠と栄養は、相互に影響し合ってその人の発育や成長、健康寿命(health span)に大きく関わっているのです。

では何時間眠れば良いのでしょうか? National Sleep Foundation発表の年齢別、望ましい睡眠時間は以下の通りです。

  • 新生児(Newborns)                                                        14-17時間
  • 乳児(Infants)                                         12-15時間
  • 園児(Preschoolers)                                     10-13時間
  • 小学生(Elementary school chldren)             9-11時間
  • 中高生(Teenagers)                                        8-10時間
  • 高齢者を含む成人(Adults including seniors)     7-9時間

これまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
これからも栄養や食にまつわる疑問、質問をお待ちしています。

 

参考資料

  1. Xie L et al. Sleep drives metabolite clearance from the adult brain (2013) Science 6156, 373-7
  2. Brendan PL et al. Reduced non–rapid eye movement sleep is associated with tau pathology in early Alzheimer’s disease (2019) Science Translational Medicine Vol.11, Issue 474
  3. Walker MP. Why we sleep (2017) Simon and Schuster
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有馬 佳代

有馬 佳代

遺伝学・栄養学博士、管理栄養士。徳島大学医学部栄養学科卒、米国アリゾナ大学大学院博士課程終了。 カリフォルニア大学アーバイン校とサンディエゴ校での研究活動を経て、Kayo Dietを設立、栄養指導、料理指導およびレクチャーなどを日米で展開しています。
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