Mar 24th, 2021

隅から隅まで聞けるリスニング力をつける


聞き手に責任あり

コミュニケーションの場では相手の言っていることを正確に理解せずに、あいまいに的を射ない返答をすれば信頼を失いかねません。相手に「聞き取れなかったのでもう一度お願いします」というのも1-2回はよくてもあまり多いとその場の流れや雰囲気を壊してしまうかもしれません。リスニング能力は聞き手側の責任と考え、日頃から地味にコツコツと鍛えて力をつけておくべきだというのが私の考えです。

聞き続け、理解し続ける力

私がここで言うリスニングとはひとつやふたつの短い文が聞きとれるかどうか、という単純なことだけはありません。短い文ならば音声処理、認知処理する時間が十分にあるので少し細部が不明瞭でも意味に到達できるでしょう。しかし現実には立て板に水のように大量に聞こえてくる英文を文脈を追いながら内容を把握していくことがリアルな現場で求められている能力です。そこには十分な音声処理、認知処理の時間が与えられていないので、リスニング修業が足りない場合、すぐに短期記憶は満杯になり、情報処理は完全に止まり、話についていけなくなります。

同時通訳の方たちはよどみなく聞こえてくる英文をどうやって記憶にとどめて日本語にしているのでしょうか。聞こえてくる英語をその場で時差なく美しい日本語に訳し続けていくのはとびきりの職人技ですので、私たちがそれをできるようになる必要は全くありませんが、「長く聞き続けられる」コツの参考にはなりそうです。

コンマひとつおろそかにするなかれ

私が自分の英語修行を始めたころ、一時通訳のコースも取っていました。毎週の課題はカセットテープに入った(!!)海外要人や政府高官の英語での講演の生音源でした。これらの音源の多くは非ネイティブのもので、非常にアクセントの強いものも多く含まれていました。(今やこれがグローバルミーティングの標準ですから当然かもしれません。)これを全て文字化(ディクテーション)して提出するのが課題でした。

これもただ文字になっていればいいわけではなく、コンマやピリオド、コロンなどなど、構文、文脈、意味を理解し、全てのパンクチュエーションを正確に取っていくことが求められました。この5分程度の音源を毎日毎日時間が許す限り、1週間にしたら何百回、何千回、と聞きました。それでも数か所、どんなに辞書を引きまくっても(当時ネットはありませんでした)どうしても分からない単語や表現がいくつかありました。悔しくて悔しくて。。。提出したものが戻ってるくると「え?なんだ~これ?」というような単語だったりすることがほとんどでしたが、この徹底的な聞き取りに費やした時間が思わぬ副産物を私に与えてくれたことを後になって実感することになります。

自分から取りにいくリスニング

発音は様々でも、フォーマルで文法的に正確なパブリックスピーチを多種多様、大量に集中的に聞き続けたおかげで自分にある程度構文を予想する能力がついたことを知ったのは生徒さんを教えるようになってからです。生徒さんが「聞き取れない」と言う時には様々な現象が起こっているのですが、それぞれの「聞き取れない理由」をヒアリングしながらある時「自分は一体どうやって聞いているんだろう」と疑問に思いました。

リスニングをしながら自分の認知活動を確認してみたところ(これをメタ認知というのでしょう)、最初に聞こえてきた部分と文脈の流れから自分の頭の中である程度「この先話がどう展開するか、どのような構文が使われる可能性があるか」ということに対して予測を立てながら聞いていることがわかりました。「このあと関係詞でつながる可能性、to不定詞でつながる可能性、ここでこのまま終わる可能性」など、文の展開に対して複数のパターンを用意して聞いているので実際に聞こえてきた時に驚いたり慌てたりすることが少ないです。

それは構文予想を立てながら聞いている

からだと思います。

隅々まで聞き取るためにはコロケーションや構文の自動化されたパターン知識をより多く持つことが長く聞き続けられるようになるコツだと今では確信しています。

今までのティーチング経験を元に、現在アルクさんのヒアリングマラソンの「標的リスニング」というコーナーを担当させていただいています。

こちらはリスニングに対する様々な手法を駆使したトレーニングがたくさん詰まったサービスです。私の担当セクション「標的リスニング」では毎回特定の構文に的を絞ったトレーニングをご紹介しています。より効率的に頻出の構文に対応できる力を養います。

次回のブログからはこちらのトレーニングの目的や方法などを少しずつご紹介していきたいと思います。どうぞお楽しみに!