ビジネスに役立つ経済金融英語 第6回:今さら聞けない(?)COP26の基礎の基礎


さる11月13日(土)に予定より1日後れで閉幕した「COP26」についてのミニ知識を。
まず、BBCの以下のビデオ(2分)をご覧下さい(英語。日本語の字幕付きです)。
https://www.bbc.com/japanese/video-59129799
- 会議の正式名称:「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(The 26th Conference of the Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change)」。「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の第26回締約国会議(平たく言えば「関係者会議」)(COP26)」というわけ。
- COPは1995年にドイツのベルリンでのCOP1以来毎年開催されている。COP26は元々昨年予定されていたがコロナで1年延期となった。条約の最高意思決定機関として、全条約締結国(21年11月現在197カ国・地域)が参加して国際ルールを話し合う。議決は全会一致が原則。したがって揉めると今回のように期間が延びたり妥協案が出たりする(後述)。
- 日本でよく知られている「京都議定書(The Kyoto Protocol)」は1997年のCOP3で採択。ただし先進国各国の温室効果ガス排出量削減目標であり、途上国は対象外。「温室効果ガスを2008年から2012年の間に、1990年比で約5%削減すること」が決められた。この削減目標は世界で初めてとなる取り決め(ただし、後に米国が京都議定書の体制から脱退)(1)。
- 2015年12月のCOP21で採択されたのがパリ協定(Paris Agreement)。世界の平均気温上昇を産業革命前(pre-industrial era)と比較して、2度C未満を目標、5度C未満に抑えることを努力目標にした。その上ですべての国が削減目標を5年ごとに提出・更新することが定められ、今回のCOP26がその「5年後」(昨年中止されたので、実際には6年目)に当たっている(2)。
- COP26の開催地は英国のグラスゴー。議長はアロック・シャーマ英ビジネス・エネルギー・産業戦略大臣。会期は当初10月31日~11月12日までの予定だったが、石炭や化石燃料の削減に関わる文言や、先進国からの資金支援などの交渉が難航し、13日に1日遅れで「グラスゴー合意」を採択し、閉幕。
- グラスゴー基本合意(Glasgow Climate Act)の主な内容(3)①パリ協定では努力目標だった、産業革命前からの気温上昇を5度に抑えることが目標に格上げされた(4)②排出削減策が講じられていない(unabated)石炭火力の段階的な削減に向けた努力を加速する。石炭火力発電の削減に踏み込んだことは大きな前進。③各国は2030年までの自国の削減目標を再検討し、22年末までに強化する(5)④パリ協定で唯一合意できていなかった温室効果ガス削減実績を「排出権」として国際間で取引する市場メカニズムの実施指針に参加国が合意。(6)
- 揉めに揉めた模様。13日夕の成果文書の採択直前になって、上の②について「(石炭火力発電の)段階的な廃止(phase-out)」という議長草案にインドが異議を唱えて「段階的な削減(phase-down)」に表現が後退。閉会直前に議長が言葉を詰まらせて涙ぐむ場面も。この会合の雰囲気を象徴する事件として日本の新聞各紙でも報じられた。
- 我が家で購入できた紙の新聞で見出しを拾ってみた(いずれも11月16日朝刊)「脱石炭 苦肉の前進 廃止→削減 表現弱める:中印、土壇場で主張」(朝日新聞 2面)、「石炭火力『削減』合意―『廃止』に異論、表現後退」(毎日新聞 1面)、「石炭攻防 最後まで:合意優先 苦渋の『削減』」(読売新聞 3面)、「COP 26 文書採択直前の波乱/中印、石炭『廃止』に反発」(産経新聞 2面)「石炭削減 苦渋の後退 ―依存の中印が激しく抵抗 島しょ国失望」(東京新聞 2面)、「迫る気候危機 動けぬ世界―分断の影 先進国主導に限界」(日本経済新聞)(7)、”Little action seen in COP 26 deal” (the Japan times, p1)、”COP 26 agrees on coal ‘phasedown’”(The Japan News by The Yomiuri Shinbun p1)
- パリ協定の概要については外務省の「2020年以降の枠組み:パリ協定」(8)、COP26に関するこれ以外の予備知識については、「研究員が解説―COP26 基礎知識」を参照のこと。(9)
気候変動問題を知るとっかかりになれば(皆さん、新聞ラックへGO!)。
ではまた次回!(来月はお休みします)
[脚注]
(1)京都議定書について、詳しくは、「京都議定書とは?合意内容とその後について:世界自然保護基金(WWFジャパン)」を参照のこと。
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3536.html
(2)パリ協定について詳しくは「パリ協定とは?脱炭素社会へ向けた世界の取り組み:WWFジャパン」を参照のこと。
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/4348.html
ちなみに米国はトランプ政権時の2020年11月4日(大統領選挙の翌日)にこの協定から正式に離脱したが、バイデン政権誕生後の2021年2月19日に復帰し、4月には気候変動サミットを主催した。
(3)Glasgow Climate Actの原文は、
https://unfccc.int/sites/default/files/resource/cma2021_L16_adv.pdf
なお、概要が日本経済新聞に掲載されています。「COP26合意文書要旨 先進国、資金支援拡大を 30年目標の再検討要請」(*有料記事です)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO77587140V11C21A1EP0000/
(4)原文ではReaffirms the Paris Agreement temperature goal of holding the increase in the global average temperature to well below 2 °C above pre-industrial levels and pursuing efforts to limit the temperature increase to 1.5 °C above pre-industrial levels(「世界の平均気温の上昇を、産業革命前の水準からプラス2度をはるかに下回る水準にし、1.5度に抑える努力を追求するというパリ協定の気温目標を再確認する」)
(5)原文は、Parties to revisit and strengthen the 2030 targets in their nationally determined contributions as necessary to align with the Paris Agreement temperature goal by the end of 2022, taking into account different national circumstances.
(6)詳しくは、「COP26閉幕!「グラスゴー気候合意」採択とパリ協定のルールブックが完成」を参照のこと。https://www.wwf.or.jp/activities/activity/4747.html
(7)迫る気候危機に動けぬ世界 分断の影、先進国主導に限界(11月16日付日本経済新聞)(*有料記事です)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM152RM0V11C21A1000000/
(8)「2020年以降の枠組み:パリ協定」 外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000119.html
(9)「研究員が解説―COP26 基礎知識」公共財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
https://www.iges.or.jp/jp/projects/cop26-basic-knowledge
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鈴木 立哉
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