ビジネスに役立つ経済金融英語 第24回: スウィフトフレーション(Swiftflation)


今回は少し軽い話題を。テーマはスウィフトフレーション(Swiftflation)。テレビ東京では2度にわたって放映されたので、かなり大きな話題かと興味を抱いた。
1度目は8月10日(木)の「ワールドビジネスサテライト(WBS)」。この日に米労働省が発表した7月の消費者物価指数(CPI)インフレ率が前年同月比で3.2%となり、13カ月ぶりに加速したというのがニュースのメインテーマだった。まず米国の消費者物価指数の推移を確認しよう(本稿における辞書や記事の翻訳、太線、下線、注などの挿入は、特に断りのない限りすべて鈴木)。
(1)米国 消費者物価指数推移(前年比)
*発表は翌月(出所:Investing.com:U.S Bureau of Labor Statistics.からの孫引き)
https://jp.investing.com/economic-calendar/cpi-733
確かに、この1年間はインフレ率はおおむね減速傾向にあったことがわかる。この1年間の動きと今回の再加速について解説したのが次の日本経済の記事だ。
(2)米消費者物価、7月2%上昇 13カ月ぶり伸び加速
【ワシントン=高見浩輔】米労働省が10日発表した7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比の上昇率が3.2%となり、13カ月ぶりに加速した。3.3%の市場予想は下回った。物価の鈍化ペースは緩やかになっており、米連邦準備理事会(FRB)は利上げの終結時期を慎重に見定める。
(中略)
高インフレがある程度収まってきたのは、ガソリンや中古車など1年前に価格が急騰した品目が落ち着いた影響が大きい。ガソリンの前年同月比の伸びは22年6月の59.9%から縮み続け、23年6月には26.5%の下落になった。7月も19.9%のマイナスだった。
(中略)
ただこうした動きはコロナ禍やロシアのウクライナ侵攻といった混乱からの正常化という側面が強い。「エコノミストや市場関係者が高インフレが克服されたと陶酔感に浸るのは早計だ」(金融大手のサンタンデール)と警戒する声は根強い。
住居費の伸びは鈍化が見込まれるものの7月も7.7%と高い伸びを続けた。米ゴールドマン・サックスは23年12月に5%、24年12月に3.4%と長い時間をかけて落ち着くと予想する。新規契約の家賃は下がりやすいが、更新契約は動きが鈍くなるためだ。
賃金の上昇圧力が収まらなければサービス価格の値上がりが収まるまでに時間がかかる可能性もある。
(以下略)
(「米消費者物価、7月3.2%上昇 13カ月ぶり伸び加速」2023年8月10日 日本経済新聞電子版) *有料記事です。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN100GA0Q3A810C2000000/
米国経済は本格回復に向かっているのか?利上げが続いても米国、ひいては世界は景気後退に陥らないのか?いや多少景気後退になってもインフレ率の抑制を優先すべきか?米連邦準備理事会(FRB)が現在抱えている最大の悩みはこれだ。実質賃金が上昇すれば消費者の購買意欲が高まる。したがって、「米連邦準備理事会(FRB)が急ピッチで利上げを進めてきたにもかかわらず、財とサービスの需要は総じてみると腰折れしていない。調査会社のBCAリサーチは「底堅い経済環境は物価の上振れリスクになる」と指摘。需要面のインフレ圧力をさらに抑える必要があるとみる」(「潜むインフレ再燃の芽、FRBの悩みの種に(NY特急便)」2023年8月19日 日本経済新聞電子版)
話を戻す。こういう状況下でテレ東はちょうど世界ツアーを実施中のテイラー・スウィフトさんを取り上げた。そして8月14日(月)の「モーニングサテライト」では、そのものずばり「米スター歌手 経済を動かす? “スウィフトフレーション”とは」というニュースに昇格(?)した。まずはそのニュースの紹介記事から。
(3)ライブツアーが「社会現象」に:テレビ東京「モーニングサテライト」から
今、世界が注目しているのがこの方。3月からライブツアーを行っている、歌手のテイラー・スウィフトさんです。本国・アメリカでの公演は「社会現象」と呼ばれるほど人気を集め、消費の起爆剤となっています。ある試算によると、ツアーに関連する消費額はアメリカだけで46億ドル=およそ6,700億円に上る見通しです。「スウィフトフレーション」とも呼ばれる、スター歌手の経済効果を取材しました。
(Newsモーニングサテライト(モーサテ)2023年8月14日
米スター歌手 経済を動かす? “スウィフトフレーション”とは)*有料番組です。
この手の話題に関する日本のニュースは「後追い記事」が多いので、英語のニュースを探してみると、CBSで次の記事が見つかった(7月の記事。1カ月遅れなら許容範囲だと思う)。
(4)「地区連銀経済報告(ベージュ・ブック)」で取り上げられたテイラー・スウィフト
The Federal Reserve Bank of Philadelphia announced this month that Taylor Swift’s tour helped boost travel and tourism in the region, a claim also made by several other U.S. cities regarding the musician’s widely popular concerts. (フィラデルフィア連邦準備銀行は今月、テイラー・スウィフトのツアーが地元の旅行業と観光業に貢献したと発表した。米国の他のいくつかの都市でも、彼女の非常に人気のあるコンサートに関連して同様の効果があったと発表されている)
Market research firm QuestionPro estimated last month that her tour could help add $5 billion to the worldwide economy. (市場調査会社クエスチョンプロは先月、彼女のツアーが世界経済に50億ドルを上乗せする可能性があると推定した)
Following the pop star’s Eras Tour stop in Philadelphia in May, the Federal Reserve Bank of Philadelphia, one of the reserve’s 12 regional banks, said in its “Beige Book” that tourism in the area continued to show slight growth.
*snip*
(このポップスターの「ザ・エラス・ツアー」が5月にフィラデルフィアでの公演を終えた後、12地区の連邦準備銀行(地区連銀)の一つであるフィラデルフィア連邦準備銀行は、「地区連銀経済報告(ベージュブック)」で、地域の観光がわずかに成長を続けていると述べた)
(以下略)
(”The Federal Reserve says Taylor Swift’s Eras Tour boosted the economy. One market research firm estimates she could add $5 billion”(連邦準備銀行、テイラー・スウィフトの「エラス・ツアー」が経済を押し上げたと発表。ある市場調査会社は彼女が世界経済に50億ドルをもたらすと推計)
BY CAITLIN O’KANE., JULY 18, 2023. CBS NEWS)
ベージュ・ブックについては次の辞典の記事が参考になる。
(5)ベージュ・ブックとは?
ベージュ‐ブック【Beige book】
米国の12の連邦準備銀行(FRB)がそれぞれ管轄する地区の経済状況をまとめた報告書。表紙のベージュ色が名称の由来。年8回開催されるFOMC(連邦公開市場委員会)の2週間前の水曜日に公表され、金融政策の判断材料として用いられる。米地区連銀経済報告書。地区連銀報告。
(デジタル大辞泉 ©SHOGAKUKAN Inc.)
では、フィラデルフィア連銀の「ベージュ・ブック」には、具体的に、何がどう書いてあったのか?次は6月23日付の報告(CBSの記事からさらに1カ月ほど前の記事)を覗いてみよう。
(6)フィラデルフィア連銀が取り上げた「テイラー・スウィフト」
Consumer Spending
個人消費
Tourism contacts continued to report slight growth – noting that the recovery was slowing. Business travel continued to recover, but leisure travel was flattening. Multiple contacts reported that the amount of money guests spend at their leisure destinations declined modestly in recent months. Despite the slowing recovery in tourism in the region overall, one contact highlighted that May was the strongest month for hotel revenue in Philadelphia since the onset of the pandemic, in large part due to an influx of guests for the Taylor Swift concerts in the city.
*snip*
(ある情報筋によると、観光関連の消費支出については、回復スピードは減速しつつもわずかな成長を続けている。出張関連費用は回復が続いているが、観光旅行は横ばいだ。旅行客がレジャーの目的地で使う金額が、ここ数カ月でわずかに減少したとの報告もある。地域全体での観光の回復が鈍化しているにもかかわらず、ある情報筋は、パンデミックの開始以来、フィラデルフィアでのホテル収益の最も強い月が5月であり、これは大部分がフィラデルフィアでのテイラー・スウィフトのコンサート来場者の増加によるものであったと強調している)
(以下略)
(”Summary of Economic Activity” The Beige Book, Federal Reserve Bank of Philadelphia, June 2023)(「経済活動の概要」2023年6月ベージュ・ブック、フィラデルフィア連邦準備銀行)
https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/beigebook202307.htm
これがこのニュースの出所だと思われる。しかしベージュ・ブックにもCBSニュースの記事にもSwiftflation(スウィフトフレーション)という言葉は出てこない・・・というわけでいろいろ検索したところ、CBS記事の9日後にロイター(Reuters)発で次の記事が見つかった。タイトルは”Beyonce-flation? How stars are driving prices up as fans flock to concerts (ビヨンセフレーション?スターの人気でコンサートチケットが高騰)”、サブタイトルは”Call it Beyflation. Or maybe Swiftflation.”(「ビヨンセフレーション」?あるいは「スウィフトフレーション」とでも呼ぼうか?)だ。
(7)「スウィフトフレーション」の語源(?)
The cost of certain goods is retreating in some places, but that doesn’t include live music. Concert tickets have surged in price, to the point where economists are noticing.(地域によっては一部商品の価格が下がり始めたものの、ライブ音楽は例外のようだ。コンサートのチケット代は急騰し、経済学者たちも注目するほどになっている)
Fans are shelling out a fortune for tickets to see the world’s biggest music acts, including names like Taylor Swift and Bruce Springsteen who haven’t toured for years. And while few doubt the star power of Beyoncé live, until now people weren’t factoring her into national inflation figures.(ファンたちは、数年間ツアーをしてこなかったテイラー・スウィフトやブルース・スプリングスティーンのような世界超弩級の音楽アーティストを見るために多額のお金を使っている。ビヨンセのライブの圧倒的な魅力や影響力を疑問に思う人はほとんどいないが、これまで人々は彼女を国全体のインフレ要因とはみなしてこなかった)
“People are willing to splurge because they know they will get quality content, plus who knows when or if she’ll do another tour after this one,” said London-based Beyoncé fan Mario Ihieme.(ロンドン在住のビヨンセ・ファンであるマリオ・イヒエメは「人々は質の高いコンテンツを楽しめることを知っているのでお金を惜しみません。何しろ、彼女が次にいつツアーをするのか、いやそもそも今後コンサートをするのかを誰もわからないんですから」と述べている)
The United Kingdom’s recreation and culture prices rose 6.8% in the year to May 2023, their fastest in 30 years, with the largest effect from cultural services, “particularly admission fees to live music events”.(2023年5月までの1年間で、イギリスのレクリエーションおよび文化活動の価格は6.8%上昇し、30年来の最速の増加率である。この中でも、特にライブ音楽イベントへの入場料が大きく寄与している)
Event prices in UK inflation data are based on when shows take place, not when tickets are bought. But with different artists performing every month, it’s hard to compare one to the other, an Office for National Statistics spokesperson said.(イギリスの消費者物価(CPI)データで捕捉されるイベントの価格は、チケットが購入された時点ではなく、公演が行われる時点に基づく。しかし、毎月異なるアーティストが公演を行うため、一つのアーティストと別のアーティストを比較するのは難しいと、国立統計局の広報官は述べる)
“The (subjective) quality of music artists emphasises how difficult it is to calculate a ‘clean’ price increase,” said UBS Global Wealth Management chief economist Paul Donovan. “And for UK inflation, the pressures may persist,” he added, noting a string of UK gigs by singer Harry Styles in June.(UBS グローバル・ウェルス・マネジメントのチーフエコノミスト、ポール・ドノヴァンは、「音楽アーティストの品質は主観で決まるため、『純粋な』価格上昇を計算するのが非常に難しいのだが、イギリスのインフレ率への上昇圧力は今後も続く可能性がある」と彼は付け加えており、6月にシンガーのハリー・スタイルズがイギリスで行う一連の公演を例に挙げている)
A perusal of ticket-purchasing sites makes the sticker shock clear. On reseller Stubhub, the cheapest seat for a July Taylor Swift show in Seattle is $1,200; tickets for an August Mexico City show cost $500 each.(チケット購入サイトを調査すると、その衝撃的な価格がはっきりとわかる。たとえば再販サイトスタブハブでは、7月のシアトルでのテイラー・スウィフト公演の最も安い席は1,200ドル、8月のメキシコシティ公演のチケットは1枚500ドルだ)
“(…) Joel Barrios, a Beyoncé fan in Los Angeles. He spent about $7,000 on three U.S. shows for himself and friends – as well as another $6,650 for several shows in Europe.(ロサンゼルスに住むビヨンセ・ファン、ジョエル・バリオスは、自分と友人のために3つの米国公演のチケットを約7,000ドルで購入しただけでなく、ヨーロッパでの数回の公演に6,650ドルも支払った)
(”Beyonce-flation? How stars are driving prices up as fans flock to concerts ― Call it Beyflation. Or maybe Swiftflation.” LOS ANGELES/GLASTONBURY, England (Reuters) -)
(「ビヨンセフレーション?スターの人気でコンサートチケットが高騰-「ビヨンセフレーション」?あるいは「スウィフトフレーション」とでも呼ぼうか?」ロサンゼルス/グラストンベリー発、ロイター、2023年6月27日)
https://jp.reuters.com/article/global-inflation-concerts-idCAKBN2YD01T
(8)スウィフトフレーションのマクロ経済への影響は・・・
But with live music just a subset of overall entertainment costs, which account for a smaller part of consumer spending than housing or food, some questioned the idea that concert prices could have an appreciable effect on inflation.(しかし、ライブ音楽は遊興費全体の一部に過ぎず、住宅や食料への支出よりも小さい。そのため、コンサートの価格がインフレに顕著な影響を与えるという考えに疑問を呈する声もある)
Andy Gensler, executive editor of Pollstar, a publication that tracks the global concert industry, called it a “ridiculous assertion” that Beyoncé’s shows would affect inflation. While ticket prices have increased, he said, mid-year figures haven’t shown an appreciable rise since May 2022, when U.S. inflation was 8.6%.(世界のコンサート業界の動向を追跡する専門誌『ポールスター』の編集長アンディ・ゲンスラーは、ビヨンセのショーがインフレ率に影響を与えるというのは「馬鹿げた主張」と評した。チケットの価格は上昇しているとはいえ、米国の消費者物価指数(CPI)インフレ率が8.6%だった2022年5月以降、今年半ばまでの数字には顕著な上昇は見られないという)
*出所は(7)と同じです。
https://jp.reuters.com/article/global-inflation-concerts-idCAKBN2YD01T
確かにスウィフトフレーションの経済効果は(3)、(4)にもある通り全世界で50億ドル。一方、経済規模は、全世界では90兆ドルを超える(2021年*)であり規模としてはかなり小さい。
(*「国際比較統計 IVマクロ経済統計等 – 一般財団法人国際貿易投資研究所(ITI)
テレビニュースで取り上げられると、「えぇ!っこの需要拡大が世界のトレンド?」と思いがちだが、「スウィフトフレーション」騒ぎ(?)は、一つの小さな兆候、話題にすぎなかったのかもしれない。
とはいえ、景気は「気」で決まる、とも言う。ちょっと横道にそれるが、確かに今から10年前、黒田日銀の「バズーカ砲」が炸裂し、市場期待によって株価は暴騰したのは事実なのだ。
(9)景気は「気」から?
13年の日経平均、56.7%上昇 41年ぶりの伸び率
2013年末の日経平均株価は1万6291円と前年末(1万395円)から56.7%上昇した。年間の上昇率は1972年(91.9%)以来、41年ぶりの上昇率だった。時価総額は458兆円と前年末から54.5%も増加した。日銀の異次元緩和などを受けて、円相場が昨年末の1ドル=86円台から105円台まで下落。安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」の後押しもあって、日本企業の業績改善に期待した買いが入った。年末にかけては、短期的な投資家が株価指数先物に買いを入れ、現物株を押し上げる展開も目立った。
(2013年12月30日付日本経済新聞)*有料記事です。
最後に、ロイターの記事に戻って締めくくる。
(10)スウィフトフレーションの伸び率は顕著
With demand far exceeding supply, TD Cowen vice president of equity research Stephen Glagola said prices for tickets on the secondary market had soared to an average 75% to 100% above face value.(需要が供給を大幅に上回っている中、金融サービス会社TDコーエンで株式リサーチ担当のバイス・プレジデントを務めるスティーブン・グラゴラは、セカンダリーマーケットでのチケットの価格が急騰し、額面価格を平均で75%から100%上回っていると述べた。)
(中略)
A recent survey from U.S. event management company Eventbrite showed 80% of consumers want to go out as much or more this year, even as fans endure the cost and difficulty of securing tickets to big events.(米国のイベント管理会社イベントブライト社の最近の調査によれば、大きなイベントのチケットを入手するためのコストや困難をものともせず、消費者の80%が、今年はこれまで以上に頻繁に外出したいと考えている)
Live Nation Entertainment CEO Michael Rapino said last month that ticket sales had risen 41% in the first quarter, with prices up by double digits.(ライブ・ネイション・エンターテインメント社のCEO、マイケル・ラピノは先月、チケットの販売額は第1四半期に41%増加し、価格も10%以上値上がりしたと述べた。)
(中略)
Beth Cook, a social media director from Leeds in northern England, said she expected to spend 100 pounds a day at the five-day festival.(北部イングランドのリーズ出身の某ソーシャルメディアディレクター、ベス・クックは、5日間のフェスティバルで1日あたり100ポンド(約1万8000円)を支出する予定だと述べた。)
It’s worth the expense, she said.(「払う価値がありますよ」と彼女は言う)
“When the pandemic was in full swing, I think everyone was in a really low mood, and we missed out on events like this, where people all come together.(「パンデミックが真っ盛りの時、誰もかれもが本当に落ち込んで、多くの人が集うこうしたイベントを待ち望んでいたのです」)
“Now I think with things up and running, the people who can afford to are saving up to come to things like this because they are amazing.”(「今、世の中が正常に戻ろうとしているんです。余裕のある人たちはこういうイベントに来ようとお金を貯めているんです。だって素晴らしい体験ですからね」)
*出所は(7)と同じです。
https://jp.reuters.com/article/global-inflation-concerts-idCAKBN2YD01T
こうした消費行動のボトムアップ効果によって経済は浮揚するのか?
では!
次回は12月です。
過去の記事一覧
昨年の今頃は、米中間の経済的対立を意味する「デカップリング(decoupling)」が盛んに報道されていたのだが、ここ数カ月で一気にバズ化(流行語化)したのが「デリスキング(de-risking)」だ。最近よく目や耳にするようになったな、と感じる読者も多いかもしれない。de-riskingは、辞書を引くと「リスク低減」「リスクの可能性を減らす」という意味が出てくるが、この言葉が「新たな」経済用語として見直され、注目されるようになったのは今年の3月30日、フォンデアライエン欧州委員長が行った中国との関係についての演説以降... ビジネスに役立つ経済金融英語 第23回: デカップリング(decoupling)からデリス... - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
第18回では「グリーンウォッシュ(Greenwash:表面だけの環境対策)』を取り上げた。ことさらに説明はしなかったが「グリーン〇〇」とは要するに「環境関連の〇〇」あるいは「環境に配慮した○○」といった漠然とした意味である。今回は、そのような表現の中から、単独で用語だけではピンとこない、あるいは誤解を招きやすいものをいくつか紹介しよう。ただし、たとえば「環境に優しい」と一口に言ってもその含む範囲は広く、意味も使い方もさまざまであり、時間とともに変化してきたものも存在する。「グリーン・・・」とついていてもネ... ビジネスに役立つ経済金融英語 第22回: さまざまな「グリーン(Green)」 - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
今年3月10日のシリコンバレーバンク(資産規模で全米16位の地銀)の経営破綻をきっかけに一気に注目度が高まったDigital Bank Run(デジタル・バンク・ラン)とSilent Bank Run(サイレント・バンク・ラン)。Googleの検索件数でみるとDigital Bank Runが16,200件、Silent Bank Runが10,600件とどちらもかなり広がっているが、日本語で見ると「デジタル・バンク・ラン」の4,030件に対し、「サイレント・バンク・ラン」はわずか18 件(いずれも5月27日午後調べ)なので、日本では今のところ「デジタル・バンク・ラン」として通用してい... ビジネスに役立つ経済金融英語 第21回 Digital Bank Run、Silent Bank Run、そし... - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
1.「グローバルサウス」に対する関心の急速な高まりここにきて「グローバルサウス」(新聞等では「南半球を中心とした途上国」といった訳注がつくことが多い)に対する関心が世界的に高まっている。つい先日(2023年4月9日)のNHK日曜討論のテーマも「徹底分析 『グローバルサウス』から見た世界」で、グローバルサウスの定義に始まり、これまでの経緯や現在の位置づけなどについて専門の研究者が意見を披露しあった(1)。G-7諸国の相対的地位が低下し、ウクライナ戦争が混迷の度を深める中で、「グローバルサウス」諸国を取り込も... ビジネスに役立つ経済金融英語 第20回:グローバルサウス(Global South) - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
いきなり出てきて、今や新聞、雑誌、テレビのニュースでこの言葉を見ない日がないくらいの盛況ぶりを見せているこの言葉。新聞の見出しを見ながら「ちょ、ちょっと待ってくれ!!!」と驚き、たじろぎ、おののいている読者の方も少なくないだろう(かく言う私もその一人である)。 実は「チャットGPT(ChatGPT)」が発表されたのは2022年11月30日、たった4カ月前のこと。その後「リリースからわずか1週間後で100万人のユーザーを獲得」(2022年12月7日付WSJ。「記事3」)、そして「2カ月後には利用者が1億人を超えた」(「生成AI... ビジネスに役立つ経済金融英語 第19回:いまさら聞けない(!?)ChatGPT入門 - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
1月末の日経産業新聞(日経オンラインで閲覧可)に「ESG投資に逆風 高まる『グリーンウォッシュ』批判」という興味深い記事を見つけた。タイトルは「多くのESG投資に対し『グリーンウォッシュ』ではないかとの批判が高まっている」という内容を示唆するが、記事の趣は異なる。前半は米国の動向で、高い運用成績を追求すべき年金基金や運用機関がESG(環境・社会・ガバナンス)という「政治的意図」を掲げるのは受益者(投資家)利益を犠牲にしているではないか、というESG投資そのものに対する批判の動きを伝えている。一方、後半の欧州... ビジネスに役立つ経済金融英語 第18回:「グリーンウォッシュ(Greenwash)」事始め - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
本連載の第4回でインフレーションを取り上げたのは2021年9月(https://q-leap.co.jp/financail-english04)。この月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比5.3%。同年1月には1.3%だったから8カ月で大幅上昇したことになるが、当時はコロナ危機によるデフレの反動、つまりベース効果(base effect:対前年比効果)がそのうち剥落してインフレ率は落ち着くだろうという見方が強かった。米連邦準備理事会(FRB)も高インフレは「一時的」(transitory)との立場で、同年のThe Economist(『エコノミスト』)誌が「2021年の言葉」の一つとし... ビジネスに役立つ経済金融英語 第17回:ShrinkflationとSkimpflation - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
アメリカの中央銀行にあたる米連邦準備理事会(FRB)は11月1日と2日に開いた政策決定会合(連邦公開市場委員会(FOMC))で、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標3.00~3.25%を0.75ポイント(75ベーシス・ポイント(bp)とも言います。先月号を復習してくださいね)引き上げ、3.75~4.00%とすることを決定した。今回で6会合連続(3月、5月、6月、7月、9月、11月)での利上げ。うち6月以降の4回の利上げはいずれも通常の3倍となる0.75ポイントだった(3月の利上げ幅は0.25ポイント、5月は0.5ポイント)。年初の誘導目... ビジネスに役立つ経済金融英語 第16回:「ターミナルレート」と「ピボット」 - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
今回は、一般には意外と知られていない(?)「%」と「%ポイント」のお話。トリビアっぽいがビジネス用語としてはかなり重要なのでしっかりと押さえておきたい。 (1)英和辞書の定義研究社ではpercent pointでは見当たらず、percentage pointではいくつか出てくる。(以下の記事の丸括弧で囲んだ翻訳および、それ以外の日本語の説明はすべて鈴木) percéntage pòint①パーセントincrease by two percentage points 2 ポイント上がる。(『リーダーズ+プラス』)② (1) パーセント・5 percentage points 5%・s... ビジネスに役立つ経済金融英語 第15回:「%」と「%ポイント」 - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
英語をそのままカタカナ語で表現してそれが日本語化する、というのは今に始まった話ではない。だが最近はビジネス上の新しい専門語や抽象語が英語の発音そのままに、いきなりカタカナで表現されて広まる事例が目立ってきたようだ。新しい日本語をつくっても意味がわからないだろうし、既存の日本語を使って一言で訳そうとしても、従来の意味や語感、使い方に引っ張られて新味が出ない。意味をきちんと伝えようとすると、原語一語を日本語一語で表現しにくいために、1ワードまたは1フレーズの英語をひとまず一言のカタカナで表現してそ... ビジネスに役立つ経済金融英語 第14回 ウェルビーイング Well-being - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
米国は2022年1-3月期(第1四半期)に続き、第2四半期も実質ベースでマイナス成長となった。金融レポート等では2四半期連続のマイナス成長になるとあっさり「景気後退」と訳すことが多いが、英語ではTechnical Recession、最近は「景気後退」と分けて、あるいは注釈をつける形で「テクニカル・リセッション入り」という訳語も見かけるようになった。今回はこの話題を取り上げる。 まずは第2四半期の成長率が発表された7月28日の『ウォーストリート・ジャーナル』紙の記事から(有料記事です。なお本稿での太字、挿入はすべて鈴木)... ビジネスに役立つ経済金融英語 第13回 Technical Recession - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
今月は、日米両国で中央銀行総裁の「一言」が物議を醸し出しました。次は、本年5月4日に行われたパウエルFRB議長の記者会見から(翻訳、太字、下線はすべて鈴木) Now, I would say I think we have a good chance to have a soft or softish landing, or outcome, if you will. And I’ll give you a couple of reasons for that. One is, households and businesses are in very strong financial shape. You’re looking at, you know, excess savings on balance sheets; excess in the sense that they’re substantially large... ビジネスに役立つ経済金融英語 第12回 ”Softish” landing - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
以下は、4月27日付のニューヨークタイムズ紙のOpinion欄から(本稿での翻訳、下線、太字はすべて鈴木)。 Dr. Anthony Fauci, President Biden’s chief medical adviser, told “PBS News Hour” that “certainly” America is now “out of the pandemic phase” of Covid-19 as our rates of new infections, hospitalizations and deaths continue to ebb. But, he added, “We’re not going to eradicate this virus.” Our best hope is to “keep that level very low, and intermittently vaccinate people,” possibly as often as... ビジネスに役立つ経済金融英語 第11回 PandemicからEndemicへ - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
まず、次の文章をお読みいただきたい(本稿での翻訳、下線、太字はすべて鈴木) By the way, I can’t help mentioning that recent events have also confirmed the truism that many, perhaps most men who pose as tough guys … aren’t. Putin’s response to failure in Ukraine has been extremely Trumpian: insisting that his invasion is all going “according to plan,” refusing to admit having made any mistakes and whining about cancel culture. I’m half expecting him to release battle maps crudely modified ... ビジネスに役立つ経済金融英語 第10回: Cancel Culture - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
日本経済新聞「経済教室」の2月8日(火)と9日(水)に「ジョブ型雇用とリスキリング」という共通テーマで論文が2本掲載された。8日が「企業、労働者の自律 後押しを」(阿部正浩・中央大学教授)(「論文1」)(1)、9日が「人的資本投資の増大 促進も」(大湾秀雄・早稲田大学教授)(「論文2」)(2)。両者をあたかも1本の論文のように実に荒っぽく要約した(本稿の太字、下線、英語の日本語訳はすべて鈴木): デジタルトランスフォーメーション(DX)が進行して、情報通信技術(ICT)・人工知能(AI)分野を中心に企業... ビジネスに役立つ経済金融英語 第9回:Reskilling - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
1月28日(金)付日本経済新聞のコラム「大機小機」のタイトルは「人減る日本、活路に二つの難題」。日本の生産性を上げるには、労働市場の硬直化と暗記偏重の学校教育を見直す必要があるという新味のない内容だったが、次のような記述が目を引いた(引用文の翻訳、太字および下線はすべて鈴木)。 ……先日、ニューヨーク・タイムズ(デジタル版1月4日付)に、米国が大離職時代を迎えている、という記事が掲載された。それによると、昨年11月の自発的離職者がこの20年間で最大を記録した、という。しかも自発的離職者の賃金が離職し... ビジネスに役立つ経済金融英語 第8回:The Great Resignation - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
皆様、あけましておめでとうございます。 Time誌(2021年12月27日/2022年1月3日号)は「今年の人(Person of the Year)」特集で、テスラ(Tesla)とスペースX(Space X)の創業者イーロン・マスク(Elon Musk)氏を選出したが、本稿のテーマは同誌の同じ号に載った “Language”、つまり「今年の言葉」。紹介された12の用語のうち、経済金融に近そうだと思われる三つを紹介する(英語の後の翻訳はすべて鈴木)。(1) NFTInitialism: Non-fungible token:a digital file that cannot be copied, thus allowing certifies ownership... ビジネスに役立つ経済金融英語 第7回:Time誌が選んだ「2021年 今年のことば」 - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
さる11月13日(土)に予定より1日後れで閉幕した「COP26」についてのミニ知識を。 まず、BBCの以下のビデオ(2分)をご覧下さい(英語。日本語の字幕付きです)。https://www.bbc.com/japanese/video-59129799 会議の正式名称:「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(The 26th Conference of the Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change)」。「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の第26回締約国会議(平たく言えば「関係者会議」)(COP26)」というわけ。COPは1995年にドイツのベルリンで... ビジネスに役立つ経済金融英語 第6回:今さら聞けない(?)COP26の基礎の基礎 - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
Sorry Millennials, your time in the limelight is over. Make way for the new kids on the block - Generation Z – a generational cohort born between 1995 and 2009, andlarger in size than the Millennials (1980-1994). (2018年6月、Barclays Research Highlights: Sustainable & Thematic Investing)(ごめんね、ミレニアル。君たちが脚光を浴びる時代は終わった。新顔に道を譲りたまえ。1995年から2009年に生まれて、君たち(1980~1994年生)よりも規模が大きい、「ジェネレーションZ」にね)(本稿の翻訳と下線はす... ビジネスに役立つ経済金融英語 第5回:Generation Z(「ジェネレーションZ」/「Z... - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
「アベノミクス」「黒田バズーカ」という言葉がはやり始めた8年ほど前から、デフレ、リフレ、ディスインフレなど似たような言葉が次々と出てきて混乱する向きもあるのではないか。そこで前回は、その中で多くの人が最も冷や汗をかきそうな「リフレーション」を取り上げた。おさらいしておくと、リフレーションには二つの意味がある。 需要を刺激し経済活動を拡大してデフレーションを克服するための政府および中央銀行による財政/金融政策のこと。 景気後退期の直後、すなわち景気回復の初期の局面で、ほどほどのインフレ率と... ビジネスに役立つ経済金融英語 第4回:インフレ、デフレ、ディスインフレ - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
最近は「リフレ」とか「リフレトレード」という言葉を耳にして「そうですねえ・・・」と相手の調子に合わせつつ目が泳いだり冷や汗をかいたりした方も多いのでは? この言葉が分かりにくいのは、①経済状況とその経済状況を実現する政策の両面で使われることが多い、②最近は新型コロナウイルス危機からの復興を目指す政策の意味で使われることも多く、使われ方が曖昧になっている、③そもそもメディアや学者によって明確に定義されていない(らしい)、したがって④「リフレトレード」とは、何を目指しているのか、どういう取引なの... ビジネスに役立つ経済金融英語 第3回:リフレーション - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
Nothing lasts forever — not even a stock market that keeps going up, up and up.This week, just days after its 11-year anniversary, investors unceremoniously said goodbye to the longest-running bull market in history.Then the bears took over.鈴木訳:この世に永遠に続くものなど何もない――上げに上げている株式市場であっても。今週、11年目の記念日を祝ったわずか数日後に、史上最長を記録した上昇相場に投資家たちはあっさりと別れを告げたのだ。そして下げ相場が後を引き継いだ。(”Stocks Enter Bear Market. Wha... ビジネスに役立つ経済金融英語 第2回:「調整」「下げ相場」と「ドローダウン」 - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
第1回は比較的軽い話題から。ダウ・ジョーンズ工業株価平均® (Dow Jones Industrial Average:ダウ平均)とS&P500種株価指数(S&P 500®)の、意外と知られていない特徴をご紹介する。両指数を算出、提供しているのは同一会社である。元々は由来、提供会社ともに異なっていたが、業者の合従連衡が進み、2012年にS&Pインデックス社とダウ・ジョーンズ・インデックス社が統合してS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社が設立されたi。ダウ平均の構成銘柄数はわずか30銘柄と、ニューヨーク取引所(2,873銘柄、時価総額約2,8... ビジネスに役立つ経済金融英語 第1回:米国株式って「ダウ」のこと? 株式指数をめ... - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
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鈴木 立哉
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