ビジネスに役立つ経済金融英語 第28回: Sahm Rule(サーム・ルール)


「サーム・ルール」?あまり聞きなれない方も多いと思います(聞いたことのない方もいらっしゃるかも)。実はこの半年ぐらいで日米のマスコミや経済レポートで頻出するようになった言葉です。今回はその名前の由来や意味等について説明します。
「サーム」とは人の名前。米連邦準備制度理事会(FRB)のエコノミストだった、クラウディア・サーム(Claudia Sahm)氏が考案した指標です。「ルール」という言葉からは、何らかの公式や法則のような印象を与えると思いますが、そうではありません(本稿における記事の翻訳、太線、下線、注などの挿入は、特に断りのない限りすべて鈴木)。
(1)サーム・ルールとは?
Sahm Rule 101:(サーム・ルールの基礎の基礎)
The Sahm Rule is an economic rule of thumb created in early 2019 by economist Claudia Sahm. It is meant to serve as a helpful guide for policymakers and intended to act as an “early diagnosis” of possible recession. A recession is defined by the National Bureau of Economic Research (NBER) as a significant decline in broad economic activity lasting more than a few months. The NBER is responsible for determining when the United States has entered a recession, and that often takes a while.
サーム・ルールは、経済学者クラウディア・サームによって2019年初頭に考案された経済の経験則である。政策立案者にとって役立つ指針として設計され、景気後退の可能性を示唆する「早期診断ツール」として機能することを意図している。景気後退は、全米経済研究所(NBER)によって「数カ月以上にわたる広範な経済活動の大幅な低下」と定義されている。NBERはアメリカが景気後退に入った時期を決定する役割を担っているが、その判定には時間がかかることが多い。
(“What is up with the Sahm Rule, and what does it mean for the Fed?(サーム・ルールに何が起きているのか、そしてそれはFRBにとって何を意味するのか)” by Sarah Stillpass, Global Investment Strategist, J.P.Morgan(JPモルガン グローバル投資ストラテジスト サラ・スティルパス) )
全米経済研究所(NBER)が景気後退だと認識するまでには相当な時間がかかる。2・四半期連続で(GDP)がマイナス成長になることを「テクニカル・リセッション(Technical Recession)」と言いますが(詳しくは本連載の第13回Technical Recessionを参照のこと)、何しろ経済成長率が発表されるのは四半期ごとであり、しかもその成長率はもちろんのこと、成長率を基に好不況の判断が発表されるまで数カ月かかる。例えばNBERのホームページのQ&Aで次のような質問と回答が掲載されている。
(2)好不況の判定までには数カ月~1年かかかる(NBERのホームページから)
(一般的に、景気後退の始まりからどれくらいの期間後に、委員会は景気後退の開始を宣言しますか?景気後退の終了後はどうですか?)
A: Our determination of the trough date in April 2020 occurred 15 months after that date, in July 2021. Earlier determinations took between 4 and 21 months. There is no fixed timing rule. We wait long enough so that the existence of a peak or trough is not in doubt, and until we can assign an accurate peak or trough date.
(2020年4月を景気後退の底(谷)と判断したのは、その15カ月後の2021年7月でした。過去の決定には4カ月から21カ月かかっていました。決定のタイミングには固定のルールはありません。景気の山や谷の存在に疑いがなくなり、正確な日付を特定できるまで十分に待ちます。)
(” Business Cycle Dating Procedure: Frequently Asked Questions”(「景気循環期の決定手続き:よくある質問」)
しかも、政策金利を決定してからそれが実体経済に影響するまでにも6カ月~20カ月程度の時間がかかる。たとえば、下のサンフランシスコ連邦準備銀行のレポートは、2022年3月に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)で、米連邦準備理事会(FRB)が政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを、それまでの0~0.25%から0.25~0.5%へ、2018年12月以来、3年3カ月ぶりに引き上げた時の効果を調べたものだ。特に金利が最も影響を与えやすい物価カテゴリにおいて約18か月後に影響が現れ始めたことが示されている。
(3)政策金利を決定してから効果が出るまでのタイムラグ(サンフランシスコ連銀のレポートより)
(The results in Figure 3 suggest that) an increase in the federal funds rate typically starts exerting downward pressure on the most responsive prices after about 18 months, … (overall headline prices)becomes negative after a little over 24 months….
(図3の結果から、)フェデラルファンド金利の引き上げは、最も反応しやすい価格に対して、約18か月後から下方圧力をかけ始めることが示唆されている。・・・また(総合的な物価指標が)マイナスに転じるのは約24か月後である・・・。
(“How Quickly Do Prices Respond to Monetary Policy?“ (物価は金融政策にどれほど早く反応するのか?)by Zoë Arnaut, Federal Reserve Bank of San Francisco(サンフランシスコ連邦準備銀行、ゾーイ・アルノー))
もちろん、金利の上げ下げが企業や個人の景況感や金融市場に反映されるのは比較的早いのだが、実体経済への影響には時間がかかるのだ。上の記事にもあるように、物価が反応し始めるのは政策金利変更からおよそ18カ月後で、全体の物価が本格的に下がり始めるのはさらに時間がかかることがわかる。
だからこそ、FRBは現在の景気状況をできるだけ早く把握できる指標を求めているはずだ。そして、それをサーム氏が見つけた、というわけだ。では、その具体的な『経済の経験則』とは何なのか?(1)のエッセイの続きは以下の通り。
(4)サーム・ルールの「ルール」((1)の続き)
What it says: The rule is relatively simple. It states that when the three-month average U.S. unemployment rate rises by 0.50% or more from its 12-month low, a recession is underway. Last Friday, the rule was triggered, as the unemployment rate increased to 4.3%.
内容は次の通りだ: このルールは非常にシンプルで、3カ月平均の米国失業率が過去12カ月の最低値から0.50%以上上昇した場合、景気後退が進行中であるとされる。先週の金曜日(2024年8月2日)、失業率が4.3%に上昇したため、このルールが適用された。
Why it anchors on unemployment data: During U.S. recessions from 1947 to 2008 (sans COVID-19), we have seen the unemployment rate increase gradually before picking up substantially. The Sahm Rule was meant to establish a threshold at which policymakers should start to respond to a downturn.
なぜ失業率データに基づいているのか? 1947年から2008年のアメリカの景気後退(新型コロナウイルスのパンデミック期を除く)では、失業率が徐々に上昇し、その後大幅に加速する傾向が見られた。サーム・ルールは、景気後退が始まる時点で政策当局が対応を開始するタイミングを示す指標として設定された。
(“What is up with the Sahm Rule, and what does it mean for the Fed?(サーム・ルールに何が起きているのか、そしてそれはFRBにとって何を意味するのか)” by Sarah Stillpass, Global Investment Strategist )
ここで興味深いのは、失業率は景気の動きに遅れて反応する「遅行指数」(lagging indicator)である一方、毎月(第1金曜日に前月分の統計が)発表される、頻度の高いハードデータ(実際の経済活動の結果を集計して公表される、主観の入り込む余地のないデータ)でもあるという点だ。「1947年から2008年のアメリカの景気後退(新型コロナウイルスのパンデミック期を除く)では「失業率が徐々に上昇し、その後大幅に加速する傾向が見られた」。したがって、各月のデータ単体では遅れていても、過去の実績と比較することで、今の景気状況を比較的早く判断する手がかりになると考えられる。
(5)サーム・ルールはなぜ注目されているのか?((4)の続き)
Why it’s getting so much attention: It has been historically accurate. Since 1970, the Sahm Rule has coincided with every recession without failure.
なぜこれほど注目されているのか? 1970年以降、サーム・ルールはすべての景気後退と一致しており、一度も外れたことがない。
(“What is up with the Sahm Rule, and what does it mean for the Fed?(サーム・ルールに何が起きているのか、そしてそれはFRBにとって何を意味するのか)” by Sarah Stillpass, Global Investment Strategist )
ニッセイ基礎研究所が発表した下のグラフがわかりやすい。
https://media.finasee.jp/articles/-/14135
(「サームルール抵触で意識される景気後退リスク」ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員 窪谷 浩)
では、このルールに従うと、現在の米国は景気後退に陥ろうとしているのかいないのか?
(6)サーム・ルール抵触で意識される景気後退リスク
8月2日に発表された7月の米雇用統計では失業率が4.3%と4カ月連続で上昇し、市場予想の4.1%を上回って21年10月以来の水準となった。また、失業率が景気後退の開始を示すとされる「サームルール」に抵触したことで、景気後退リスクが意識されている。
(中略)
7月の米雇用統計の結果を受けてサームルールの指標は0.53%ポイントとなった。
(「サームルール抵触で意識される景気後退リスク」ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員 窪谷 浩)
結局、9月18日のFOMCで、FRBは0.5%の利下げを発表した。2020年3月以来、4年半ぶりとなる利下げである。「背景には、インフレ鈍化基調が継続し、インフレの高止まりに対する警戒感が後退する一方、雇用関連指標は弱い指標が出てきていることが挙げられる」(「米利下げ=円高と必ずしもいえないワケ」みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部 総括・市場調査チーム 主任エコノミスト 東深澤武史)。
最後に今年7月31日に行われたパウエル議長の記者会見から引用しよう。
(6)「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」パウエルFRB議長の記者会見より
VICTORIA GUIDA.(記者):On the labor market, I was wondering, how worried are you all about unemployment rising to the point where it triggers the Sahm rule, and would that potentially affect how quickly you cut rates?
(労働市場についてお伺いします。失業率が上昇してサーム・ルールが適用されることを、どの程度懸念されていますか?それによって利下げの速度に影響が出る可能性はありますか?)
CHAIR POWELL. …We’re, we’re aware of that rule, which is really a, you know, a—I would call it a statistical, statistical thing that has happened through history. A “statistical regularity” is what I’d call it. It’s not like an economic rule where it’s telling you something must happen. …
(・・・そのルールについては承知しています。それは、歴史的に見られる統計的な傾向、そうですね、私はそれを「統計的な規則性」と呼びたいと思います。それは経済的な法則のように「必ず何かが起こる」と示すものではありません。・・・)
VICTORIA GUIDA.(記者): Is there reason to think that the labor market might behave differently this time than it has historically?
(今回の労働市場が、これまでの歴史的なパターンとは異なる動きをする可能性があるとお考えですか?)
CHAIR POWELL. I think, you know, history doesn’t repeat itself; it rhymes. That statement is very true about the economy. You never assume it’s going to be just the same.
(私は「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」*という言葉が経済について非常に当てはまると思います。決して過去と全く同じになると想定すべきではありません)
*「トム・ソーヤーの冒険」で知られる米作家マーク・トウェインの言葉とされる。全く同じではないが、似たようなことはよく起きるという警句。
(Transcript of Chair Powell’s Press Conference July 31, 2024)
さあ、どうなる?
では年末に!!
(余談)9月25日に『史上最強の投資家 ウォーレン・バフェット: 資産1260億ドルへの軌跡』(トッド・A・フィンクル (著), 鈴木 立哉 (翻訳))が発売となりました。よろしくお願いいたします。
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今月は、日米両国で中央銀行総裁の「一言」が物議を醸し出しました。次は、本年5月4日に行われたパウエルFRB議長の記者会見から(翻訳、太字、下線はすべて鈴木) Now, I would say I think we have a good chance to have a soft or softish landing, or outcome, if you will. And I’ll give you a couple of reasons for that. One is, households and businesses are in very strong financial shape. You’re looking at, you know, excess savings on balance sheets; excess in the sense that they’re substantially large... ビジネスに役立つ経済金融英語 第12回 ”Softish” landing - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社 |
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鈴木 立哉
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今回は、ここ1年たらずのうちに一気に注目度の高まった「アテンションエコノミー」と、それとワンセットで語られることの多い「フィルターバブル」「エコーチェンバー効果」の計三つを紹介します。まずは昨年の都知事選挙に関する記事か […]...

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英語学習アプリ「スタディサプリENGLISH」のメディアサイト「英語サプリ」にて、Q-Leap が執筆した全60本の記事が公開されました。執筆陣は各分野で指導経験はもちろん、自己学習歴の長いプロフェッショナル講師の皆さん […]...

ビジネスに役立つ経済金融英語 第29回: Hallucination(幻覚)とConfusion(混同)
2023年3月28日の第19回『いまさら聞けないChatGPT入門』から約1年9カ月が経過しました。今や生成AIを日常的に使う方も増え、社会に深く浸透しているように感じます(さすがに今の時点でもピンとこない方は、どうぞ下 […]...