Aug 30th, 2014

Beyond native speakers (3) – Standard English?


UCL  Summer Course in English Phonetics (SCEP)

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8月10日から22日までの2週間、ロンドン大学で音声学のサマーコースに参加して来ました。音声学は私が東京でTESOLの修士コースに通った時に初めて取った課目でもあり、またそれ以来ずっと興味を持っている分野です。小学校時代、そして高校をアジアで過ごしたこと、日本の大学を出てからアメリカ企業とイギリス企業に勤めたこと、そこで様々な国籍の人たちと一緒に働く経験を持ったこと、さらに最近では様々な国籍の生徒さんを教える機会にも恵まれたこと、などから私の耳は今まで本当に多くの英語のバリエーションにさらされて来たと思います。その経験から基本的には「自分の言いたいことをきちんと相手に伝えられる発音ならなんでもいい」つまりintelligibility があれば良い、という考えが基本です。でもその一方で教える立場としては「出来る限り英語と日本語の音の仕組みを知りたい、そして日本語に無い音をしっかり指導できるようになりたい」という気持があります。そして永遠の課題は「では、どこまで生徒さんに教えるべきなのか、どこまでネイティブ(それが誰を指すのかは別として)に近いものを目標とすべきなのか」というところです。この疑問は長らくずっと私の中にあり、今回どっぷり英語の本家本元に浸かることでもう一度この問題を考えてみたい、そして自分の知識とスキルを上げたい、という2つの目的を持ってサマーコースに参加しました。
今回はロンドン大学ですから、Received Pronunciation (RP) といわれる地域性が無く、教養や身分というものの証明になり(つまり王族、貴族、知識階級なども使う)かつ英国でもほんの数パーセントの人しか使っていないのにも関わらず最も好ましいとされているバリエーションをドーンと中心に置いたコースでした。「英語の音をきちんと学ぼうと思ったらまずは「どのバリエーションを」「どの発音記号システムを使って」というところをしっかり統一しないとかなりあやふやなものになりますよ」、というのは教壇に立たれた教授方からの統一された強いメッセージだったと思います。なぜかと言えば世の中には数えきれないほど口語英語のバリエーションが存在するからです。私はアメリカ英語にもイギリス英語にも同じ程度さらされて来たのでたまに発音記号が混ざるとかなり厳しく確認されました。Standard Englishの定義は何か、というのは結論の出ない議論だと思いますが、RPはStandard Englishに含まれるかと聞かれて’No’という人は皆無でしょう。コースの中ではロンドン大学で使っている発音記号システムに完全に従う形で行われました。ですので、自分のティーチングの主義としては比較的広義に捉えている許容可能な発音というものを、今回の2週間ではかなり狭義にトレーニングしてきた印象です。

 

 

国土は狭いのにバリエーションがたくさん

さらにイギリスは国土は狭いのに話されている英語のバリエーションが非常に多いことが特徴的です。日本の生徒さんは「イギリス英語が聞きにくい」と仰る方がとても多いのですが、その理由のひとつは日本の公教育で使われている英語の音声がほとんどアメリカ英語であること、そしてもうひとつはこのバリエーションの多さかもしれません。英国人同士でも違うバリエーションは「聞きにくい」と思うらしいので私たちがそう思うのは当然ですね。
主なバリエーションだけでもRPの他にLiverpool ‘Scouse’, Scottish, Yorkshire, Newcastle ‘Geordie’, Birmingham ‘Brummie’, Cockney, Irish, さらにはPosh (上流階級)なんていうのもあります。これだけしっかりバリエーションがあるので、英国人の間でも「発音」というのは話題としてとても興味を持って話されているもののようで、私が「ロンドン大学で音声学のコースを取っています」というとみんな一様に身を乗り出して「具体的に何をやるの?」とか「なぜ必要なの?」とかそこからその場の話題が発音にまつわる面白い話で持ちきりになってしまうことが良くありました。そして必ず皆さん「自分のは◯◯地方の発音」とか「自分はRPじゃない」とか必ずコメントするんですね。すごく反応が面白いなあ、と思って話を聞いていました。

私がBalcony Houseを貸してもらった友人はNewcastle出身なのでロンドンに住んで長いけれどまだまだGeordieと呼ばれるイギリス北東部の発音を残しています。彼のお兄さんは完全にRPに移行したらしいですが、彼は「敢えて変えない」と言っていましたので様々な考え方があるようです。私にとってGeordieはちょっと聴き取りにくいところがあるので彼との会話では気を抜くと「??」となることがありました。かつてはRPといえばつまりBBC Newsのアンカーの発音を指していましたが、最近は地方のアクセントがある人も積極的に採用されているそうです。コメディアンなどは地域色を強く出した話し方をすることで逆に笑いをとって人気者になっているようです。そのようなわけで、学校ではRPを突き詰めながら実際の生活ではバリエーションの洗礼を受けまくる、という2週間でした。

文化や歴史に彩られた様々な発音の楽しみに触れながらますます興味は深まるばかりの毎日でした。

また次回に続きます!

 

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