Jul 12th, 2021

ビジネスに役立つ経済金融英語 第2回:「調整」「下げ相場」と「ドローダウン」 


Nothing lasts forever — not even a stock market that keeps going up, up and up.

This week, just days after its 11-year anniversary, investors unceremoniously said goodbye to the longest-running bull market in history.

Then the bears took over.

鈴木訳:

この世に永遠に続くものなど何もない――上げに上げている株式市場であっても。

今週、11年目の記念日を祝ったわずか数日後に、史上最長を記録した上昇相場に投資家たちはあっさりと別れを告げたのだ。

そして下げ相場が後を引き継いだ。

(”Stocks Enter Bear Market. What Does It Mean? “(下げ相場入りした株式市場。いったいどういう意味があるのか?)NPR March 12, 2020)[i]

2020年3月12日の米国公共放送(NPR)のホームページに掲載されたこの記事。いやNPRだけではない。世界中のメディアが米国の株式市場に釘付けとなった。

いったい何があったのか?

次の表を見ていただこう。

これは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)[i]が中国初のローカルな疾病からパンデミック(世界的流行)に拡大していく過程で米国株式市場が史上最高値をつけてから大暴落に至るまでを簡単にまとめたものである。中国の肺炎患者に感染が確認されたのが2020年1月9日(木)、11日に中国で初の死者、21日に米国内で最初の感染者が確認され、中国当局が「人から人への感染」を認めた。それからわずか2カ月間の出来事だった。

1分で振り返る「コロナショック」

2月12日(水)にまずダウ平均が、次いで1週間後の19日にS&P500種株価指数とナスダック総合指数がそれぞれ(当時の)史上最高値をつけた。「中国政府の積極的な景気支援策で新型肺炎の経済的な悪影響が和らぐとの見方が広がった」(2020年2月20日付日本経済新聞)がその背景だ。当時はまだ感染拡大は中国国内に限定され、パンデミックにはならないというのが市場の一般的な見方だったのだ。

ところがその後世界各国に感染症が一気に広がり、たった1週間で主要3指標は「調整局面」入りする。3月11日(水)に世界保健機関(WHO)が「パンデミック宣言」を行うと3指数ともに「下げ相場」に入り、そのわずか10日後に大底をつける。主要3指標の「ドローダウン(Drawdown)」[iii](天井から底値までの下落率:適当な日本語訳はなさそうだ)はいずれも30%を超えた。

私が確認した限り、この2カ月間で日本経済新聞の株式欄の見出しに「ダウ平均、史上最大の下げ幅」という見出しが躍ったのが4回あった。「~以来の下げ幅」「以来の下げ率」も数日置きに繰り返された。今から振り返ると、まさに「あっという間」の出来事だった。そして米国株式相場は3月23日を境に反転し、まずはナスダックが、次にS&P 500が、そして最後にダウ平均が2月の高値を抜いて一気に駆け上がっていくことになる。

次の動画で当時の雰囲気を思い出していただきたい(日本語字幕付き。画面右上の日付に注目)。

引用:1分で振り返る アメリカ初の新型ウイルス感染、確認後の60日間(BBC news Japan)

「調整局面」「下げ相場」とは

「調整局面」「下げ相場」とはどういう状況なのか?「調整局面」「下げ相場」はいつ始まり、いつ終わるのか?

結論から言うと、日本にも米国にも厳密な定義はない。ただし米国市場では慣習的に使われている基準があって、Wall Street Journal、Financial Times、Bloomberg等の主要メディアもおおむねそれに準拠している。そして当然のことながら(?)日本のメディアもそれに倣っている。

調整(Corrections)

金融、投資に関する用語を集めた米国のサイト「インベストペディア(Investpedia)」の説明によると「調整とは、証券価格が直近高値から10%以上下落した状況のこと……2018年のCNBCレポートによると、S&P500種株価指数の調整局面は平均4カ月続き、価格はおよそ13%下落する」[iv]。そして、調整局面は「……ブルームバーグの定義によると、以前の高値に戻したときに終了する。この手法によると、2009年以降2018年までに起きた4度の調整は平均すると200日弱で終わった。最長は2015年5月から2016年7月までの417日」[v]。この基準に従うと、S&P500は高値からわずか6営業日という史上最速ペースで調整局面入りした(下表参照)。

 

下げ相場(Bear market)

インベストペディアは「平均株価が直近高値から少なくとも20%下落すると下げ相場入りする、というのが一つの定義だ」と述べた上で、「ただし、調整において10%の下落を恣意的な基準としているのと全く同じ意味で、20%という数値は恣意的に決めた数値である」と断っている[vi]

では下げ相場はいつ終わるのか?インベストペディアの別の記事によると「底値から20%以上上昇したときに終わる」という[vii]

例えば直近の高値が100だったとする。すると90を下回った時点で調整局面入り。80~100の間は「調整局面」で100に戻ると「調整局面が終了」。逆に下がって80を下回ると「下げ(弱気)相場」入りする。その後例えば50で底打ちしたとすると、そこから起算して20%上昇だから、60以上で下げ相場終了(=上昇相場入り)になる、というわけだ(繰り返しになるが、あくまでも慣習的なルールである)。

以上の基準をあてはめると、S&P500種株価指数の下げ相場が終了したのは4月8日。ナスダックは4月14日。そしてダウ平均は3月26日、なんと大底からわずか3日後だった。ただし2月の史上最高値を一番先に超えたのはナスダックで6月9日、S&P500は8月18日。最も遅れたのがダウ平均で、終値ベースで2月の高値を抜くには11月16日まで待たなければならなかった。

歴史的な東京オリンピックと相場の行方

最後に、大底をつけた前後の数日のニュースを簡単に振り返っておくと、3月23日(月)に米連邦準備理事会(FRB)が「バズーカ砲」と呼ばれる無制限の資金供給を発表、そして3月27日(金)にコロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES法)が成立している。一方「世界保健機関(WHO)は30日、『初期研究によると、いくつかのワクチンは新型コロナに効果があるかもしれない』と指摘した。9月までにワクチンの臨床試験を開始すると発表した医薬・日用品大手のジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の株価が8%上昇し、ダウ平均を押し上げた。(「NYダウ690ドル高、経済対策とワクチン開発期待で」3月31日付 日本経済新聞)[viii]等々、大胆な政策発動とワクチン開発への期待が相場上昇に大きく貢献した模様である。詳しくは当時の報道や関連書籍をもう一度紐解いていただきたい。

現時点(2021年7月11日)で、新型コロナ危機はまだ収束しておらず、日本では4度目の非常事態宣言が出される中、東京ではオリンピックが開催されるとのこと。100年後に「あの時」と言及されるはずの今の「歴史的大事件」を当事者の一人としてそれぞれが記録とともに記憶しておきたい。

直近(7月9日終値ベース)での主要3指標と大底からの上昇率を紹介しておく。S&P500(4369.55、+95.3%)、ナスダック(14,701.92、+114.3%)ダウ平均(34,870.16、+87.6%)。いずれも史上最高値を更新した。

ではまた来月!

▼前回の記事はこちら
ビジネスに役立つ経済金融英語 第1回:米国株式って「ダウ」のこと? 株式指数をめぐる「あるある」

【脚注】

[i] https://www.npr.org/2020/03/12/815090982/stocks-enter-bear-market-what-does-it-mean

[ii] 病名はCOVID-19、ウイルス名はSARS-CoV-2。WHOは2020年2月11日、新型コロナウイルス感染症の正式名称を「COVID-19」とすると発表した。コロナウイルス感染症と感染者が報告された2019年を組み合わせたもの。COVID-19の「CO」は「corona」、「VI」は「virus」、「D」は「disease」の意味となる。(2020年2月13日付 日経メディカル 三和 護=編集委員)

[iii]欧米メディアではよく出てくる言葉で、「天井から底までの下落率」以外に「大幅下落」の意味もある。以下はインベストペディアから。Investopedia https://www.investopedia.com/terms/d/drawdown.asp )

[iv]Investopedia https://www.investopedia.com/terms/c/correction.asp

[v] Investopedia, By MARK KOLAKOWSKI Updated Mar 29, 2018) https://www.investopedia.com/news/5-stock-corrections-show-more-pain-ahead/

[vi] Investopedia, “Guide to Bear Markets”) https://www.investopedia.com/terms/b/bearmarket.asp

[vii] . A bear market ends when prices increases by 20% or more from its low. (RealizeRetirement® Monthly, What You Need to Know About Bear Markets) https://www.icmarc.org/realizeretirement-monthly/what-you-need-to-know-about-bear-markets.html

[viii] (有料記事です)https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57433550R30C20A3000000/