Oct 17th, 2017

ADHDを持つ今は高校生のCくん、どこまでサポート?<その2>


ADHD

少し時間が空いてしまいましたが、お子さんがいる方や教育関係の方は新学期(米)や2学期(日)が始まり、慌ただしくお過ごしではないでしょうか。<その2>として今回とりあげるトピックは、<その1>で登場したCくんがその後どうなったか、です。

今は15歳となりカリフォルニア州でいう高校生(9年生)となったCくん、待ち焦がれていた高校生活が始まりました。お勉強よりもスポーツに勤しみたい彼ですが、米国のたいていの高校には、ある程度の成績をキープしていないと、どのスポーツチーム(部活動)にも入れないという厳しいルールがあります。そのルールは、成績表で最低GPA2.0*はとっていること、どの授業もpass (A,B, C, Dのいずれか)しており、落第(F = failure)していないことなどが挙げられます。

兄が大学進学をアイスホッケーで決め、カレッジリーグで活躍していることを自慢にしているCくんは、自分もその後を追いたいと小さい時からアイスホッケーに没頭してきました。良い成績を取りたいのも、高校でチームに入るため、チームに居続けるためです。

アイスホッケー

さて、<その1>の最後で、 アセスメントの結果、チームで支援プラン(The Section 504 plan**)を立て、学習面の様子をモニターし、周りの人の理解を促す という結論になったと書きました。さらにその数ヶ月後、状況は変わらず、または悪化したとの報告がありました。CくんのADHD的問題行動、数学に関する学習障害の疑いが強まったのです。

そこで新学期。高校での授業選択は、スクールガイダンスカウンセラー(SC)と本人が一緒に決めていきます。Cくんは良い成績を取りやすくすることを念頭に、一番内容が易しい数学のクラスを選びました。さらにStudy Skills Classという選択科目を選び、そこで数学のサポートを受けることにしたそうです。少人数制で個人指導を受けられる 環境であり、数学のクラスで出された課題をそこで取り組める時間です。

さらに、学校が始まって3週間が経ったある日の放課後。私(School Psychologist)を含め、保護者、各コースの教師、Cくん本人が招集され、SCのファシリテーションのもと、Cくんの504 Planの確認を行いました。集まった教師陣は、数学、国語、スペイン語、ビデオ制作、体育、Study Skillsの6名。それぞれがここ3週間の彼の様子を、本人を前に出席している父親(警察官)に報告していきます。みなさん単刀直入に、「よくやっている」「集中力が切れる」「双子の弟と同じクラスなのでふざけてしまう」「課題提出が遅れている」など、ズバズバ指摘していく中、改善策を提案・模索していきます。その中には「弟を別のクラスに移籍させる」というのまで。

Cくんは教師陣に圧倒されたのか、また父親の威圧感に反応しているのか、言葉少なめ。それでも自分でそれぞれの課題提出期限を延ばしてくれるよう頼んでいました。このような自分で支援を求めるスキルを、self-advocacy Skills***といい、障害者の権利を自分で守る、という考え方からきています。

ミーティングの目的と本題は、教師陣が504 Planの内容を理解・同意することとサインすることです。数ヶ月前、中学校で盛り込まれたプランの内容とは、

  • 選択授業中や体育の時間、必要に応じてサポートクラスの教室に行くことができる
  • 教室内で、Cくんをふざけてしまう集団から離す、前列に座らせる
  • テストを受ける時、ノートを参照して良い、または時間を延ばして良い
  • 必要であれば、静かな別の環境でテストを受けることができる
  • 課題の量や内容を必要に応じ調整する

これらのプランは、Cくんにかなり寛大にできていると感じました。私はミーティング中、Cくんの目を見て、「これはあなたの権利ですよ。だから自分で必要な時を見定め先生に伝えていかなければならないよ。」 “These are the privileges we agreed for you to be successful in classes. You are the one who has to be aware of the needs and applies the plan for them. You have to advocate for yourself.“と伝えました。

もしこのプランが作用しなかった場合の具体案ついても話しました。すなわち、再度心理教育的アセスメントを経て、学習障害または発達障害の認定を受け、特別支援教育(IEP****) の一環としてゴールを定めモニタリングしつつ、数学のクラスをさらに特別支援教育を受けている生徒のためのクラスに変えることです。

この話題になった途端、Cくんは「僕は障害なんかない。本気を出せばできる。下のクラスには行かない。」と否定し始めました。父親も「彼は怠慢なだけ、本気を出していない。自分も数学では苦労したけど卒業はした。だから生活態度を改めればできるはず」とおっしゃる。そこは上手に聞き、「もちろんです。彼の潜在能力は高いのです。ただ、この結果にもある通り(以前のアセスメント結果を取り出す)、Cくんはexecutive functions*****という脳の機能に難しさを感じています。つまり、整理整頓、プランニング、判断力、注意力、そういう機能です。数学にも少なからず影響しているようです。そこを認め、対策を立てて手立てを整えるのも実のある高校生活を送る一つの方法です。」と説明しました。それだけ私は「このままではマズイよ」と危機感を持って欲しかったからです。一番心配しているのは、今彼の持つ自信が押しつぶされないか。いつも難しいところですが、選択肢を提示して、熟慮の時間をおきます。

このように、高校生ともなると自分の達成したいこともはっきりし、内的動機に裏付けられた目標(Cくんの場合、ホッケーをする、ホッケーで推薦進学する)も立てやすくなる代わりに、自信や効力感の有無、セルフイメージなども作用してくるので、サポートの方法も複雑にならざるを得ません。根底にあるのは、self-advocacy skillsの向上。Cくんは長けている方だと感じましたが、さらにはexecutive functioning の向上を意識して高校生活に活かしてもらいたい、と強く思いました。

*GPA = Grade Point Average (A standard way of measuring academic achievement in the U.S.) A-D, Fが各学期の成績としてつき、数字化して全教科の成績を平均した値。

**The Section 504 Plan: <その1>のおさらいですが、障害を持つ子供達が適切な無料公立教育と交通手段やカウンセリングなどの関連サービスを受ける権利を保証し、障害を持たない子供達と同じように教育の機会と利益が与えられるように、差別行為を禁ずる法律Rehabilitation Actの一部。たとえば、喘息など健康面のニーズのある場合、HIVなど伝染病を持つ場合、ドラッグやアルコール中毒症状のある場合、ADHDなどで知能と学力が平均以上で差が見られない場合などが含まれる。連邦からの補助金は支給されない。

***self-advocacy Skills: Ability to use communication skills such as negotiation, compromise, and persuasion to reach goals. Ability to assume responsibility for actions and decisions. Self-confidence. Pride.
(交渉や譲歩、説得などのコミュニケーションスキルを駆使して目標に到達する力。行動や決定事項に自己責任を見出すスキル。自信、プライドとも関連する)

****IEP: Individualized Educational Planのこと。個別支援プランが立てられれば、特別支援教師による特別なプログラムやサービスの提供や成績の付け方ができる。

*****executive functions: A set of processes that all have to do with managing oneself and one’s resources in order to achieve a goal. It is an umbrella term for the neurologically-based skills involving mental control and self-regulation. 神経学的用語として使われる実行機能、すなわち情報処理機能の一つ。ゴールを達成するための自己管理や情報管理を司る。ADHDを始め、発達障害を持つ人が難しさを感じる場合が多い。