Jan 10th, 2022

ビジネスに役立つ経済金融英語 第7回:Time誌が選んだ「2021年 今年のことば」


皆様、あけましておめでとうございます。

 

Time誌(2021年12月27日/2022年1月3日号)は「今年の人(Person of the Year)」特集で、テスラ(Tesla)とスペースX(Space X)の創業者イーロン・マスク(Elon Musk)氏を選出したが、本稿のテーマは同誌の同じ号に載った “Language”、つまり「今年の言葉」。紹介された12の用語のうち、経済金融に近そうだと思われる三つを紹介する(英語の後の翻訳はすべて鈴木)。

(1) NFT

Initialism: Non-fungible token:a digital file that cannot be copied, thus allowing certifies ownership of a virtual asset.(頭字語:非代替性トークン: 複製のできないデジタル・ファイルのことで、仮想資産の所有権を証明できる)(Time, December 27, 2021/January 3, 2002, page26。以下deplatform、hybridの定義部分も引用先は同じ)。

 

デジタル上の創作物の「本物」とコピーを区別する仕組みのこと、と理解しておけばよいと思う。ちなみにTime誌は2021年3月22日号でNFTs Are Shaking Up the Art World—But They Could Change So Much More(美術界を揺るがすNFT―さらに大きな変革が起きるかも)という記事を掲載し、それまではデジタル絵画を無償でポストしていたアニメーター志望の20歳の美大生の体験を紹介している。

 

“At first, I didn’t know if it was trustworthy or legit,” says Boykins, who goes by the online handle “BLACKSNEAKERS” and who has sold more than $60,000 in NFT art over the past six months. “But to see digital art being bought at these prices, it’s pretty astounding. It’s given me the courage to keep going.”(「最初、私はこれが信用できるちゃんとしたものなのかがわかりませんでした」。過去6カ月で6万ドル以上を売り上げたハンドルネーム“BLACKSNEAKERS”のJazmine Boykinsはこう語る。「でも、デジタル作品がこんな値段で買われるのを目の当たりにしてビックリ仰天です。この道を進んでいこうという勇気をもらえました」)(1)

 

なお、コリンズ英語辞典を刊行しているイギリスの大手出版社・ハーパーコリンズも、Word of the Year (2021年を象徴する単語)としてこの言葉を選んでいる。

 

‘NFT’, the abbreviation of ‘non-fungible token’, the unique digital identifier that records ownership of a digital asset which has entered the mainstream and seen millions spent on the most sought-after images and videos, has been named Collins Word of the Year 2021.

(「非代替性トークン」の略語。(今年に入って)人々の注目を一気に集め、数百万人の人々が最も人気のある画像やビデオに資金を投じたデジタル資産の所有権を記録する唯一無二のデジタル識別子のことだ。コリンズはこの語を2021年今年の単語に選出した)(2)

 

    (2) deplatform

Verb. To ban, boycott or otherwise limit the influence of someone on a platform -usually a social media or other public forum(動詞。プラットフォーム―ソーシャル・メディアその他の公開討論の場―に対する誰かの影響を禁止、拒否、または他の手段で制限すること)

 

プラットフォームから排除する。プラットフォームへのアクセスを遮断する、という意味。最も有名な事例は、言うまでもなく2021年1月のツイッター社によるトランプ氏アカウントの永久凍結だ。

 

米ツイッター社は8日、「暴力行為をさらに扇動する恐れがある」として、ドナルド・トランプ大統領の個人アカウントを永久凍結したと発表した。ツイッターの代替として多くのトランプ氏の支持者が活用するソーシャルメディア・アプリ「Parler(パーラー)」については、グーグル社が8日、アップル社が9日、それぞれ自社のアプリ・ストアで凍結・削除したほか、アマゾン社がホスティング・サービスのサービス提供を停止した(3)

 

ニューヨーク・タイムズ紙はすぐに(1月8日)この言葉を使った。記事のタイトルとリードだけ紹介する。

The Deplatforming of President Trump

He is running out of places to post.(4)

(トランプ氏、プラットフォームから排除される。

もはや投稿する場所が尽きてしまった大統領)

 

(3) hybrid

Adjective: To be composed of mixed parts, as in an employment model in which employees are expected to mix in-person and remote work.(形容詞:異なる種類の構成要素が混ざり合っている状態。たとえば従業員がオフィス勤務と在宅勤務の混合の勤務体系が期待される雇用モデルに見られる)。

 

「ハイブリッド勤務」は新型コロナ危機発生後に一気に広まったので、ハイブリッドという言葉はかなり馴染んでいるかも。

 

ニューヨーク・タイムズ紙の2021年7月26日号に、6 Productivity Tips for Your New Hybrid Work Life(新しいハイブリッド勤務を生産的にするための6つのヒント)という記事が掲載された。以下ではその6つのヒント(記事の小見出し)のみ紹介しておこう(5)

 

  • Replicate your work office’s setup at home. (自宅でもオフィスの配置を再現する)
  • Invest in mobile accessories.(スマホ/パソコンの付属品に投資する)
  • Go paperless as much as possible.(なるべくペーパーレスにする)
  • Create time blocks to manage your days.(時間管理をしっかり行い、自分だけの時間を確保する)
  • Stay connected to your co-workers.(同僚たちとの連絡を絶やさない)
  • If you’re a manager, set clear expectations about hybrid work.(管理職であれば、部下たちに何をどうしてもらいたいかの基準やルールを明確にする)

 

この記事は、こう締めくくっている。

Finally, hybrid work is new territory for most people, so keep experimenting with your team.(最後に、ほとんどの人にとって、ハイブリッド勤務は新しい分野なので、チームのメンバーと試行錯誤を繰り返すこと)

 

(余談)

Time誌(2021年12月27日/2022年1月3日号)が選んだ他の9つの用語も、訳語、および関連しそうな日本語の記事ともに紹介しておきます(アルファベット順)。「マン・オブ・ザ・イヤー」だけでなく、こういった小ネタもお客様との話題に使えるかも。

 

breakthrough(ブレークスルー感染)

「「ワクチン接種後のブレークスルー感染」 なぜワクチンと感染予防対策の両方が必要なのか」

https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/column/0006.html

 

cheugy(チュージー:少し時代後れ、頑張りすぎ)

「米Z世代発のスラング「Cheugy」とは? – Z世代とミレニアルの最前線」

https://note.com/kt_121200/n/n43fc6155fcbd

 

critical race theory(批判的人種理論)

「クリティカルレース理論とは何ですか?定義、原則、およびアプリケーション」

https://www.greelane.com/ja/%e7%a7%91%e5%ad%a6%e6%8a%80%e8%a1%93%e6%95%b0%e5%ad%a6/%e7%a4%be%e4%bc%9a%e7%a7%91%e5%ad%a6/critical-race-theory-4685094/

 

eco-anxiety(エコ不安症)

「気候変動の影響は、私たちのメンタル面にも――人々をむしばむ「エコ不安症」とは?

https://ampmedia.jp/2019/08/30/ecoanxiety/

 

hot vax summer(ホット・ワクチン・サマー:ワクチン接種を受けた人が、自由に外に遊びにいくことができることを期待した2021年の夏のこと)

「気候危機の時代に、消費者に勇気を与えられるブランドになるには」

https://www.sustainablebrands.jp/news/us/detail/1204998_1532.html

 

metaverse(メタバース:コンピューターやネットワークのなかに構築された現実世界とは異なる仮想空間やそのサービス)

    <

「過熱するメタバース。熱狂を生む2つの潮流とは?」この記事を読むと、フェイスブックの新しい社名の意味がわかります。

https://forbesjapan.com/articles/detail/44776

 

murraya(ミカン科植物)ゲッキツ)

「米スペリング大会、14歳少女がアフリカ系初の優勝」この記事を読むと、なぜこの語が選ばれたかがわかります。
https://www.bbc.com/japanese/57773668

 

regencycore(リージェンシーコア:イギリスの摂政時代の服装にインスパイアされたファッション。Netflixの人気ドラマ『ブリジャートン家』がトレンドの発端といわれている)

「ドラマ『ブリジャートン家』は時代劇版『ゴシップガール』?現実逃避にピッタリすぎる」

https://front-row.jp/_ct/17423398

 

second gentleman(セカンド・ジェントルマン:女性副大統領の夫のこと)

「アメリカ史上初の「セカンド・ジェントルマン」が背負う、パイオニアの責務」

https://globe.asahi.com/article/14239868

 

以上、ご参考まで。

ではまた来月!今年もよろしくお願いします。

 

(脚注)

    (1) NFTs Are Shaking Up the Art World—But They Could Change So Much More(by Andrew R. Chow, Time, March 22, 2021)

https://time.com/5947720/nft-art/

    (2) The Collins Word of the Year 2021 is… NFT

https://www.collinsdictionary.com/woty

    • (3) 「ツイッター社、トランプ氏の個人アカウントを永久凍結 各社がSNSパーラーを凍結や削除」BBC、

https://www.bbc.com/japanese/55583622

(4) By Andrew Ross Sorkin, Jason Karaian, Michael J. de la Merced, Lauren Hirsch and Ephrat Livni, The New York Times, Jan. 8, 2021 *有料記事です。

https://www.nytimes.com/2021/01/08/business/dealbook/trump-facebook-twitter-deplatforming.html?searchResultPosition=1

(5) “6 Productivity Tips for Your New Hybrid Work Life” by Melanie Pinola

The New York Times, JULY 26, 2021 *有料記事です。

https://www.nytimes.com/wirecutter/blog/productivity-tips-for-hybrid-work/?searchResultPosition=1