Aug 29th, 2022

ビジネスに役立つ経済金融英語 第13回 Technical Recession


米国は2022年1-3月期(第1四半期)に続き、第2四半期も実質ベースでマイナス成長となった。金融レポート等では2四半期連続のマイナス成長になるとあっさり「景気後退」と訳すことが多いが、英語ではTechnical Recession、最近は「景気後退」と分けて、あるいは注釈をつける形で「テクニカル・リセッション入り」という訳語も見かけるようになった。今回はこの話題を取り上げる。

 

まずは第2四半期の成長率が発表された7月28日の『ウォーストリート・ジャーナル』紙の記事から(有料記事です。なお本稿での太字、挿入はすべて鈴木)。

 

The U.S. economy shrank for a second quarter in a row—a common definition of recession—as the housing market buckled under rising interest rates and high inflation took steam out of business and consumer spending.(米国経済は2四半期連続で縮小した。これは一般に「景気後退」と定義される状況で、金利上昇を受けて住宅市場が低迷し、高インフレで企業および個人消費が伸び悩んだことが原因だ)。

 

Gross domestic product, a broad measure of the goods and services produced across the economy, fell at an inflation and seasonally adjusted annual rate of 0.9% in the second quarter, the Commerce Department said Thursday. That followed a 1.6% pace of contraction in the first three months of 2022.(商務省が木曜日(28日)に発表したところによると、全米で生産された財・サービスを幅広く捕捉した指標である国内総生産(GDP)は、2022年4-6月期(第2四半期)に年率0.9%(インフレ・季節調整済み)縮小した。これは第1四半期の-1.6%に続くマイナス成長だ)。

 

The report indicated the economy met a commonly used definition of recession—two straight quarters of declining economic output.(この報告によると、米国経済は2四半期連続での経済産出量の減少という景気後退の一般的な定義に当てはまったことになる)。

 

The official arbiter of recessions in the U.S. is the National Bureau of Economic Research, which defines one as a significant decline in economic activity, spread across the economy for more than a few months.(米国で景気後退を正式に認定するのは全米経済研究所(NBER)で、同研究所は景気後退を「経済活動が著しく低下し、数カ月以上にわたって経済全体に波及すること」と定義している)。

(”U.S. GDP Fell at 0.9% Annual Rate in Second Quarter; Recession Fears Loom Over Economy: Output shrank for second straight quarter, held back by rising inflation and interest rates” by Harriet, Torry, The Wall Street Journal, Updated July 29, 2022)(第2四半期の米国GDPは年率0.9%減、景気後退懸念が浮上――インフレと金利上昇に阻まれ、生産は2四半期連続で縮小)。

https://www.wsj.com/articles/us-q2-gdp-growth-economy-11658981184?mod=article_inline

 

この記事から明らかなのは「2四半期連続のマイナス成長は、正式な定義ではない。」、ということだ。米国の景気後退を正式に認定するのは全米経済研究所(NBER)だと断っている。同じ内容を報じた同日の日本経済新聞の記事では、2・四半期連続で実質GDPがマイナス成長だと冒頭に紹介した上で・・・

 

 

国際的には実質ベースのマイナス成長が期続くと「テクニカル・リセッション」と呼ばれ、機械的に景気後退局面とみなされる。6月の消費者物価上昇率は前年同月比9.1%と40年半ぶりの水準で、強いインフレにさらされている。景気後退になると、物価上昇が併存する「スタグフレーション」の色合いが濃くなる。

……

米国では全米経済研究所(NBER)が景気後退を正式に認定する。2四半期以上続いたマイナス成長は第2次世界大戦後の1949年以降で計10回あり、すべてが正式に景気後退だったと認定されている。終戦直後の47年は認定されていないなど、例外はある。

(「米国、2四半期連続マイナス成長 4~6月のGDP0.9%減」2022年7月28日付日本経済新聞)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN274R50X20C22A7000000/

 

要するに、これは「正式な定義ではない」とはいえ、過去のデータを見る限り、その大半のケースで「正式な景気後退」に認定されているということだ。

 

 

国際通貨基金(IMF)が発行する季刊誌Finance and Developmentの2009年3月号には次の記述が見つかった。

There is no official definition of recession, but there is general recognition that the term refers to a period of decline in economic activity.(景気後退の正式な定義は存在しないが、経済活動が低下する期間を指すという一般的な認識はある)。Very short periods of decline are not considered recessions.(ただし、ごく短い期間の落ち込みは景気後退とはみなされない)。 Most commentators and analysts use, as a practical definition of recession, two consecutive quarters of decline in a country’s real (inflation adjusted) gross domestic product (GDP)—the value of all goods and services a country produces.(多くの評論家やアナリストは、一国の実質《インフレ調整後》国内総生産(GDP)、つまり一国が生産するすべての財とサービス価値の2・四半期連続での減少を景気後退の実用的な定義として使っている)。

(”What Is a Recession?” by Stijn Claessens and M. Ayhan Kose,  Finance & Development March 2009)

https://www.imf.org/external/pubs/ft/fandd/2009/03/pdf/basics.pdf

 

日経の記事で「国際的には」とあったのは、国際通貨基金(IMF)がそう仮定義し、多くの国がこの慣例に従って呼称しているからだろう。

さて、この「テクニカル・リセッション」という言葉については、7月24日(日)(米国の第2四半期GDPが発表される4日前)に、イエレン財務長官(前FRB議長)と、NBCが毎週日曜日午前に放送する人気報道番組「ミート・ザ・プレス」の司会チャック・ドット氏との間で交わされたやりとりが非常に興味深いので紹介しておこう(下の原稿は6分30秒ぐらいから)。

 

 

司会: Help us play armchair economist this week.(我々『お茶の間エコノミスト』にも考えるヒントを頂きたいのですが・・・)。 There is a ton of data coming out this week.(今週は実にたくさんのデータが発表されます)。It’s probably a fun week for economist because we’re going to have consumer confidence survey, the second quarter GDP numbers, we got inflation numbers for June.(エコノミストにとっては楽しい週となりそうです。消費者信頼感調査と第2四半期GDPが発表されるからです。6月のインフレ率はすでに発表済みです)。Which is the indicator? What’s the number you’re most focused on that will give you a better indication of where this economy is headed?(そうした時に今、我が国経済がどの方向に向かっているのかをよく示す指標として、あなたが最も注目しているのはどれでしょうか?)。

 

イエレン長官: Well, I look at all the data, and GDP will be closely watched.(私はすべてのデータに目を通しますが、GDPには注目しています)。 A common definition of recession is two negative quarters of GDP growth or at least that’s something that’s been true in past recessions when we’ve seen that there has usually been a recession, and many economists expect second quarter GDP to be negative, first quarter GDP was negative.(一般的な景気後退の定義は、GDP成長率が2四半期連続でマイナスであること、少なくとも過去の景気後退で実際そうだったことが確認されており、多くのエコノミストは第2四半期のGDPがマイナスになると予想しています。第1四半期のGDPもマイナスでしたし)。So we could see that happen, and that will be closely watched, but I do want to emphasize what a recession really means is broad-based contraction in the economy, and even if that number is negative, we are not in a recession now, and – and I would, you know, warn that we should be not characterizing that.(したがって、そういうこと(=連続のマイナス成長)は十分にあり得ますので、目が離せません。けれどもここで強調しておきたいのですが、景気後退の本当の意味は、経済が広範囲にわたって縮小することであり、たとえこの数字がマイナスになったとしても、今は景気後退ではありませんし、そう決めつけないよう、今のうちに申し上げておきたいと思います)。

 

司会: I understand that, but you’re splitting hairs. If the technical definition is two quarters of contraction, you’re saying that’s not a recession.(おっしゃることはわかるんですが、景気後退の定義が2四半期の縮小なのに、『それは景気後退ではない』とおっしゃるのは、話が矛盾していませんか)。

 

イエレン長官: That’s not the technical definition. There’s an organization called the National Bureau of Economic Research that looks at a broad range of data in deciding whether or not there is a recession, and most of the data that they look at right now continues to be strong.(それはtechnical definitionではありません。全米経済研究所(NBER)という組織があり、そこでは幅広いデータを見て景気後退かどうかを判断していますが、彼らが見ているデータのほとんどは、好調を維持しているのです)。I would be amazed if the NBER declared this period to be a recession even there are two quarters of negative growth. (いくら2四半期に渡ってマイナス成長であったとしても、もしNBERがこの時期を景気後退と宣言したら、私は驚嘆するでしょう)。We’ve got a very strong labor market…. We are creating almost 400,000 jobs a month.(労働市場も非常に好調で……。毎月40万人近い雇用が創出されているのですから)。That is not a recession. (これは景気後退ではありません)。

(”Full Yellen: ‘There’s a path’ to avoid recession” (イエレン財務長官「景気後退を回避するための『道筋』はある )

https://www.nbcnews.com/meet-the-press/video/full-yellen-there-s-a-path-to-avoid-recession-144681029934

 

上の発言で、That’s not the technical definition.とはつまりThat(=two quarters of contraction) technical recession is not the technical definition.ということ。ここで、technicalの意味を辞書でおさらいしておこう。

 

 

téch・ni・cal

━a 専門の, 専門[技術]的な; (高度な)技法[手法, 技術, テクニック]の(ある[要る]), 技巧的な; (化学)工業的方法による; (理)工学[科学]の(実務知識を有する), 理系の; 実用(上)の, 技術[設備, 装置]面の; 応用科学の, 工芸の (opp. classical); 厳密な(法)解釈に従った場合の, 法律[建前]上の, 細かい点の; 法律[規則]によって成立する; 【証券】 内的原因による, 人為[操作]的な.

『リーダーズ・プラス』(研究社Online Dictionary © Kenkyusha Co., Ltd. 2004.)

 

ウェブスター辞書にはこうある。

 

Definition of technical

1a: having special and usually practical knowledge especially of a mechanical or scientific subject(特に機械的または科学的なテーマについて、専門的かつ通常は実用的な知識を持つこと)。

b: marked by or characteristic of specialization(専門性によって特徴づけられる)。

2a: of or relating to a particular subject(特定の主題の、またはそれに関連すること)。

https://www.merriam-webster.com/dictionary/technical

 

Definition of technically

1: with regard to or in accordance with a strict or literal interpretation of something (such as a rule, a term, or an official description or designation)(ルール、条件、あるいは正式な描写あるいは指定など、何かの文字通りの厳密な、または文字通りの解釈な観点から/に従うと)。

https://www.merriam-webster.com/dictionary/technically

 

以上から考えると、technical recessionとは、「2四半期連続マイナス成長ならそう見なすというルールをそのまま当てはめた景気後退」。一方technical definitionは(専門的な、あるいは厳密な意味での)定義を意味しているのだと思います。つまり、イエレンさんは

 

「2四半期連続してマイナス成長になったら景気後退」というルールを機械的に当てはめた『テクニカル・リセッション』は、専門的な(あるいは厳密な)定義(technical definition)とは言えません」

 

とおっしゃったわけですね。The technical recession is not the technical definition.の意味が少しはスッキリしたでしょうか。

 

(余談)イエレンさんのご発言に対する評価。

「毎月40万人近い雇用が創出されている」のだから景気後退ではないというご意見はもっともではありますが、イエレンさんご自身がインタビューの中で認め、日経記事でも「2四半期以上続いたマイナス成長は第2次世界大戦後の1949年以降で計10回あり、すべてが正式に景気後退だったと認定されている」という事実も踏まえると、なかなかに苦しい弁明にも聞こえる。

 

ただし、次のような見方がある点には留意しておきたい。

 

On the risk of a recession: a recession is defined as a two-quarter decline in real, as opposed to nominal, GDP. In a highly inflationary economy, it is more difficult for nominal spending and growth to exceed inflation. (景気後退のリスクについて:景気後退とは、2四半期のGDPが名目ベースではなく実質ベースで減少することと定義されている。高インフレ経済では、名目支出や成長率がインフレ率を上回ることは難しい)In order therefore for today’s economy to grow on a real basis, nominal GDP growth must be >8.6%, which is a difficult hurdle to exceed.(したがって、現在の経済が実質ベースで成長するには、名目GDP成長率が8.6%以上でなければならず、このハードルを超えることは困難)。

 

It has been 40 years since we have experienced inflation at current levels, and as a result, market participants are used to a world with 4-5% nominal GDP growth and 2% inflation. (現在のような水準のインフレを経験するのは40年ぶりであり、その結果、市場参加者は名目GDP成長率4~5%、インフレ率2%の世界に慣れてしまっている)。With inflation at 2%, nominal GDP growth need only decline from 4-5% to less than 2-3% for two quarters in a row for real GDP to be negative and for the economy to be deemed to be in a recession.(インフレ率が2%であれば、名目GDP成長率が4~5%から2~3%以下に2四半期連続で低下するだけで実質GDPはマイナスとなり、景気後退とみなされる)。

 

Two quarters of negative GDP growth does not however seem to be a reasonable definition during a period with high inflation, particularly when inflation has spiked to nearly 9%. Nominal spending growth of 8% for the last two quarters would technically put us in a recession, but this does not make sense fundamentally.(だが、2四半期のGDPマイナス成長は、高インフレの時期、特にインフレ率が9%近くまで急上昇している時期には、妥当な定義とは思えない。過去の名目GDP成長率が8%であれば、(注:インフレ率が9%近いのだから)2期連続マイナスというルールをそのまま当てはめると景気後退となるが、これは基本的に理に適っていない)。

(Whitney Tilson’s Daily, on July 5, 2022)

https://empirefinancialresearch.com/articles/bill-ackman-larry-summers-and-paul-krugman-debate-inflation-tiktok-is-flooded-with-health-myths-the-end-of-our-backroads-trip

 

ちなみに、この放送から4日後の7月28日に発表された実質GDP速報値はマイナス。日本では「山の日」(米国では8月10日)に発表された7月のCPI上昇率は前年同月比8.5%と高水準ながら6月の9.1%からは減速し、これを受けて株式市場は大幅高となった。そして12日(金)に発表されたミシガン大学消費者信頼感指数(University of Michigan Consumer Sentiment Index)の速報値(Preliminary Results)は55.1と市場予想を上回った。

 

さあ、どうなるのか?そして中間選挙は?

 

ではまた来月!

 

(お知らせ)9月22日に新刊の訳書が出ます。

トム・ニコラス教『ベンチャーキャピタル全史』鈴木立哉訳(新潮社)。プレスリリースはこちら(↓)。現在予約受付中です!! どうぞよろしくお願いします。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000675.000047877.html?fbclid=IwAR3hDmY6M3ZC2O58DKGyNQEkVodKAwjhwSImPzzwMOMBBcfkzKLQY9BCVrc

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