Oct 25th, 2022
ビジネスに役立つ経済金融英語 第15回:「%」と「%ポイント」
今回は、一般には意外と知られていない(?)「%」と「%ポイント」のお話。トリビアっぽいがビジネス用語としてはかなり重要なのでしっかりと押さえておきたい。
(1)英和辞書の定義
研究社ではpercent pointでは見当たらず、percentage pointではいくつか出てくる。(以下の記事の丸括弧で囲んだ翻訳および、それ以外の日本語の説明はすべて鈴木)
percéntage pòint
①パーセント
increase by two percentage points 2 ポイント[パーセント幅]上がる。
(『リーダーズ+プラス』)
② [名] (1) パーセント
・5 percentage points 5%
・six-tenths of a percentage point 0.6%.
(『新英和中辞典』)
③━ 名 C パーセント(ポイント) 《パーセントの数値》
Interest rates have been raised by two percentage points. 公定歩合が 2 パーセント上がった。
(『コンパスローズ英和辞典』:以上はいずれも研究社Online Dictionary © Kenkyusha Co., Ltd. 2004)
(2)英英辞書
④ Definition of percentage point
one hundredth of a whole : PERCENT(全体の100分の1。「パーセント」)
Interest rates rose one percentage point from 6.5 percent to 7.5 percent(金利が6.5%から7.5%へと1%ポイント上昇した)
(Merriam-Webster
https://www.merriam-webster.com/dictionary/percentage%20point )
⑤ Definition: one per cent (定義:1パーセント)
Interest rates have been cut by half a percentage point.(金利は0.5%ポイント上がった)
(Macmillan Dictionary
https://www.macmillandictionary.com/dictionary/british/percentage-point )
つまり、一般辞書で見る限り、%ポイント=%ということだ。ところが、これだとビジネスの場では誤解を招きかねない局面が出てくる。たとえば、「5%が6%に上昇した」とは「1%上昇した」と言ってよいのか?という問題だ。
この点をわかりやすく説明しているのが、Market Business Newsの以下の記事だ。
(3)「%ポイント」の実務上の定義
What is a percentage point? Definition and meaning(パーセンテージ・ポイントとは?定義と意味)
A percentage point, also known as a percent point or pp, is a one-hundredth. (パーセンテージ・ポイントは、パーセント・ポイントやppとも呼ばれ、100分の1のことを意味する)。
・・・と、ここまでは辞書の説明通り。この記事の本領は次の文章から発揮される。
If something increases by one percentage point it does not mean it increased by 1% – people commonly confuse the two, but they are quite different.(何かが1%ポイント増加した場合、それは1%増加したことを意味しない。人々はよくこの2つを混同するが、それらは全く異なるのである)。
※percentage pointの日本語表記は「%ポイント」「パーセント・ポイント」「パーセンテージ・ポイント」「ポイント」と何でもありだが、以下本稿では便宜的に「%ポイント」としておく。大事なことは「%ポイント」は「%」ではない、ということであり、次の文章で「正しい」定義が示される。
Percentage point refers to the arithmetical difference between two percentages. 10% is one percentage point more than 9%.(%ポイントとは、2つのパーセンテージの算術的な差のことを指す。10%は9%より1%ポイント多い。)
https://marketbusinessnews.com/financial-glossary/percentage-point-definition-meaning/
以上が定義で、次が同じ記事からの事例紹介だ。
(4)「%ポイント」の事例:Market Business News
事例1
If a country’s GDP (gross domestic product) grew by 2% in 2016 and by 1% in 2015, it means that GDP in 2016 was one percentage point higher than in 2015, but not one percent (1%) higher – it was 100% higher (2% is double 1%). When something is 100% greater, it means it is double.(ある国の国内総生産(GDP)が2016年は2%、2015年は1%成長したとすると、2016年のGDPは2015年より1%ポイント高かったが、1%高かったわけではなく、100%高かった(2%は1%の倍)ことを意味する。何かが100%大きいということは、2倍ということだ)。
事例2
Five percent compared to four percent, four percent versus three percent, 3% contrasted with 2% – all have a difference of one percentage point, but in the first case 5% is 25% greater than 4%, in the second case four percent is 33% greater than three percent, and in the last case 3% is 50% greater than 2%.(4%と5%、3%と4%、2%と3%、いずれも1%ポイントの差だが、最初のケースでは5%は4%より25%、2番目のケースでは4%は3%より33%、最後のケースでは3%は2%より50%大きくなる)。
https://marketbusinessnews.com/financial-glossary/percentage-point-definition-meaning/
Math’s FUN(数学は楽しい)というページにもわかりやすい例があった。
(5)「%」と「%ポイント」:混乱をさけるためのヒント:Math’s FUN
If you simply subtract one percentage from another, use the term “Percentage Points” when talking about the difference.(単純にある%を別の%から差し引く場合、その差について話すときは「%ポイント」という言葉を使うべきだ)。
This makes it clear that you do not mean a relative change (i.e. some fraction of the original value).(この考え方では、相対的な変化(つまり、元の値の何分の一か)を意味していないことは明らかだ)。
Example:
Headline: “Interest Rates Jump From 10% to 12%”
(例:表題「金利が10%から12%に跳ね上がった」
Question (さて問題だ)
Is that: a 20% rise(12/10 = 1.2 = 120%) Or
(この金利変動は20%の上昇(12/10 = 1.2 = 120%)なのか、それとも)
Is that: a 2% rise(from 10% to 12%)
(10%から12%への2%の上昇なのか?)
Is it 20% or just 2%?(20%か、それともわずか2%なのか?)
Correctly speaking, that was a 20% rise, because “%” is a ratio of two values (the new value divided by the old value).
(正しくは、これは20%の上昇である。なぜなら「%」とは、2つの価値の比、つまり新しい方の金利「12」を元の金利「10」で割ったものだからだ)。
(Math’s Fun: Percentage Points https://mathsisfun.com/percentage-points.html )
なお、先ほどは日本語の英和辞典の定義を紹介したが、『プログレッシブ ビジネス英語辞典』(小学館)には定義があった。
(6)『プログレッシブ・ビジネス英語辞典』の定義
パーセンテージポイント,パーセントポイント(pcp)
解説:金利などの率の変化を述べるときに使用される単位には percent と percentage point がある.たとえば,年率 10 percent の金利が 10 percent 上昇したと言えば,年率 11 percent の金利になったことを意味する.年率 10 percent の金利が 10 percentage points 上昇したと言えば,年率 20 percent の金利になったことを意味する.つまり,percent は比率としてのパーセントを表し,percentage point は絶対数としてのパーセントを表している。
(『プログレッシブ・ビジネス英語辞典』 ©Shogakukan Inc.)
丁寧に説明してあるけれども、「percentage point は絶対数としてのパーセント」は少々わかりにくいと思う。それなら、次の方が簡潔で、わかりやすい。
(7)総務省の定義
ポイント(ポイント差) percent point
パーセントで表された数字同士の差を表す単位。
総務省総務局「統計学習の指導のために 先生向け 補助教材『基本用語集』」
https://www.stat.go.jp/teacher/glossary-ha-ho.html
ここまでで「%ポイント」に関する定義を紹介してきたが、メディアでは意外と不正確な(?)表現が目立つ。
(8)オーストラリア準備銀行による利上げを報じた日本経済新聞の記事
オーストラリアが0.25%利上げ、2.6%に 上げ幅は縮小
【シドニー=松本史】オーストラリア準備銀行(中央銀行)は4日の理事会で、政策金利を0.25%引き上げて2.6%にすると決定した。利上げは6会合連続だが、上げ幅は9月の0.5%から縮小した。中銀のロウ総裁は声明で「短期間で大幅に金利が上昇した」と指摘、「インフレと豪州の経済成長見通しを勘案した」と説明した。
(「オーストラリアが0.25%利上げ、2.6%に 上げ幅は縮小」2022年10月4日付日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM031HP0T01C22A0000000/
上の記事はオーストラリアの中央銀行が政策金利をそれまでの2.35%から2.6%へと引き上げたという内容。ここで「0.25%」とは2.6%(変更後)―2.35%(変更前)=0.25%ということだが、これは厳密には正しくない。なぜならば、「0.25%」は「(変更前の)2.35%の0.25%ではない」(2.35%の0.25%は0.005875%(=2.35 ×0.25%))からだ。したがって、本来は「0.25%ポイント」または「0.25ポイント」と表記すべきだろう。ただし多くのメディアでは、金利の変動に関しては「ポイント」を使っていない。こうなるともう「慣習」としか言いようがないだろう。
同じ内容を、バロンズ誌は次のように報じている。
(9)オーストラリア準備銀行による利上げを報じたバロンズ誌の記事
Last week, Tokyo stocks enjoyed gains as investors briefly took heart from factors including a smaller-than-expected 0.25 percent point rate hike by the Reserve Bank of Australia.(先週の東京株式市場は、オーストラリア準備銀行による0.25%ポイントの利上げが予想より小さかったことなどを受けて、投資家が一時的に活気を取り戻した。)
(Barron’s, “Tokyo Stocks Close Lower” https://www.barrons.com/news/tokyo-stocks-close-lower-01665468606
しかし、金利変動の場合、0.25 percent point rate hikeという書き方はむしろ少数派で、次に示すオーストラリア準備銀行(the Reserve Bank of Australia)自身の発表のような表記がむしろ一般的だ。
(10)オーストラリア準備銀行自身による利上げの発表
RBA tightens policy 25bp
The Reserve Bank of Australia raised its main interest rate 25 basis points to 2.6% today, as inflation continues to run outside the 2–3% target range.
(RBAは25bpの政策引き締め:オーストラリア準備銀行は、インフレ率が2~3%の目標レンジ外を推移していることから、本日、主要金利を25ベーシス・ポイント(bp)引き上げ、2.6%とした)。
すでにイメージは湧いていると思うが、念のため、ベーシス・ポイントについて、先ほど紹介したMath’s FUNの定義を示しておく。
(11)ベーシス・ポイント(bp)とは?
Basis Points
In financial markets they often use the term “Basis Points”. A Basis Point is one hundredth of a Percentage Point:(ベーシス・ポイント:金融市場ではよく「ベーシス・ポイント」という言葉が使われる。ベーシス・ポイントは、パーセンテージ・ポイントの100分の1である)。
つまり、ベーシス・ポイント(bp)は「パーセント幅の100分の1」ということだ。『プログレッシブ・ビジネス英語辞典』は、もっとはっきりと次のように言い切っている。
(12)『プログレッシブ ビジネス英語辞典』によるベーシス・ポイント(bp)の定義
ベーシス・ポイント(bp)[⇒金融業界で金利の変更幅などの表示に使用される単位.1ベーシス・ポイントは1パーセントの100分の1ではない。1パーセンテージ・ポイントの100分の1である。たとえば,金利が0.1%から0.15%に上がった場合,一般の人は 0.05%上がったと言うだろうが,金利は実際には50%上がっているのだから,これは厳密には誤用である.正確には5 basis point上がったと言わなければならない](→percentage point)
(『プログレッシブ・ビジネス英語辞典』 ©Shogakukan Inc.)
「%ポイント」と「ベーシス・ポイント(bp)」の定義と用例についてここまではっきりと、わかりやすく説明してくれた日本語の辞典には出会ったことがない。感心した。
ではまた来月!