コラム

ビジネスに役立つ経済金融英語 第17回:ShrinkflationとSkimpflation

2023年1月26日
鈴木 立哉鈴木 立哉
ビジネスに役立つ経済金融英語 第17回:ShrinkflationとSkimpflation

本連載の第4回でインフレーションを取り上げたのは2021年9月(https://q-leap.co.jp/financail-english04)。この月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比5.3%。同年1月には1.3%だったから8カ月で大幅上昇したことになるが、当時はコロナ危機によるデフレの反動、つまりベース効果(base effect:対前年比効果)がそのうち剥落してインフレ率は落ち着くだろうという見方が強かった。米連邦準備理事会(FRB)も高インフレは「一時的」(transitory)との立場で、同年のThe Economist(『エコノミスト』)誌が「2021年の言葉」の一つとしてtransitoryを選んだことを覚えておられる方も多いだろう(詳しくは次の記事を参照。https://www.japan-interpreters.org/news/suzuki-finance8/ )。その後産油国ロシアによるウクライナ侵攻と日米欧のロシアへの経済制裁などがエネルギー・資源価格の高騰に拍車をかけてインフレ率が急騰。2022年7月にはCPIは9.1%と40年ぶりの水準まで上昇し、直近(2022年12月)は6.5%まで落ち着いてきた、というのがここまでの流れだ。

 

さて、今月取り上げるのは「指標には出ないインフレーション」、shrinkflationとskimpflationだ。前者が商品/製品に関する用語、後者がサービスに関する用語である。どちらも比較的新しいが重要な言葉なので、ご存じない方はこれを機会に覚えておいていただきたい。

 

1. Shrinkflation (「シュリンクフレーション」)

まず、『エコノミスト』が選んだ「2022年の言葉(word of the year)」に関する記事から(本稿では、特に断りがない限り、英語から日本語への翻訳、文章への下線、注の挿入はすべて鈴木)。

 

記事1『エコノミスト』の「2022年の言葉」から

The economic problems to which the war contributed brought new words too.  The catchiest in that subcategory is shrinkflation, whereby companies hide price increases by downsizing products while keeping price tags unchanged. It is a perfect portmanteau (a word built from parts of others).  It not only points to an important thing, but its component parts are transparent so that it requires little explanation.

 

(戦争がもたらした経済問題は、新しい言葉も生んだ。 その中で最もキャッチーなのは「シュリンクフレーション」(企業が値札を変えずに商品を小型化することで値上げを隠す)である。これは完璧な混成語(複数の言葉の一部を組み合わせて作られた言葉)なので 言葉の構成要素がわかりやすく、重要なことを意味していながらほとんど説明の必要がない)。

(Johnson: Halfway home, the Economist. December 17, 2022. p82)

 

shrinkflation(「シュリンクフレーション」)は、shrink=縮む、と-flation=インフレを意味する語が組み合わさった混成語(portmanteau)なので意味がわかりやすい、と断って記事中で定義されている。

ちなみにThe Wall Street Journal紙(WSJ)によると、『メリアム・ウェブスター辞典(Merriam-Webster Dictionary)』(『ウェブスター辞典』)が2022年にこの語を採用したとのこと。

 

記事2:『ウェブスター辞典』がshrinkflationを採用(2022年9月)

Others reflect the economy. Shrinkflation is when companies put fewer potato chips in bags, or less cookies in a box, while charging customers the same price.

(”ICYMI, Shrinkflation, Pumpkin Spice and MacGyver Are Now in the Dictionary ‘A word has to have staying power,’ Merriam-Webster editor at large says of new additions”, by Joseph Pisani. The Wall Street Journal. Sept. 7, 2022)

 

(同辞典に新たに採用された新語には景気を反映したものもある。「シュリンクフレーション」とは、例えば企業が顧客に同じ価格を請求しながら、袋に入れるポテトチップスの数や箱に入れるクッキーの数を減らすことである)。

 

(「ICYMI、Shrinkflation、Pumpkin Spice、MacGyverが辞書に登録:『単語は持続力を持たなければならない』、『ウェブスター辞典』の大編集長が新語追加について語る」Joseph Pisani『ウォール・ストリート・ジャーナル』2022年9月7日)*有料記事です。

https://www.wsj.com/articles/icymi-shrinkflation-pumpkin-spice-and-macgyver-are-now-in-the-dictionary-11662589566?page=1

 

*注:この記事のタイトル中のICYMIとは「In case you missed it(あなたが見逃した場合)」の略語。「パンプキン・スパイス・ラテ」はスターバックスの人気商品。MacGyverは「手元にあるものでなんでも直せる人を意味する俗語」。米国の人気ドラマの主人公名から。

 

もっともshrinkflationという言葉自体は、比較的新しい言葉ではあるものの2022年に突然現れた文字通りの「新語」ではない。

 

以前も紹介したWSJのWord on the street(「ウォール街で見かけた言葉」)では、stagflation(スタグフレーション:高インフレと景気後退が持続的に続くこと。詳しくはこちらを参照。https://www.japan-interpreters.org/news/suzuki-finance9/)を取り上げた記事の中で、その起源を説明している。

 

記事3:「シュリンクフレーション(shrinkflation)という言葉の起源

In 2014, the economist Pippa Malmgren, a former adviser to President George W. Bush, debuted the term “shrinkflation” to describe what happens when companies shrink the size of goods—from candy bars to bottles of beer—but charge the same amount, or even raise prices. An Associated Press report this week observed that shrinkflation (also called “downsizing”) has been proliferating as a response to supply-chain woes.

(‘Stagflation’: When Prices Soar and Growth Slumps:A British politician coined the term for an economic ailment that beset the 1970s and is now threatening a comeback, by Ben Zimmer. The Wall Street Journal. June 9, 2022)

 

(2014年、ジョージ・W・ブッシュ大統領の顧問を務めた経済学者のピッパ・マルムグレンは、企業がキャンディーバーから瓶ビールまで商品のサイズを縮小しながら、料金を据え置くか、値上げすらしてしまう状況を表す「シュリンクフレーション」という言葉をデビューさせた。今週のAP通信の報道によると、シュリンクフレーション(「ダウンサイジング」とも呼ばれる)は、サプライチェーンの問題への対応として広まってきていると報じた)

 

(「スタグフレーション=物価高騰と成長鈍化:英国の政治家が作った、1970年代を襲った経済危機を表す造語で、現在では復活の恐れ」Ben Zimmer『ウォール・ストリート・ジャーナル』2022年6月9日)*有料記事です。

https://www.wsj.com/articles/stagflation-when-prices-soar-and-growth-slumps-11654806401?mod=Searchresults_pos5&page=1

 

ただし、この言葉は2022年まではほとんど注目されなかった。その理由は明らかだ。米国では1991年以降、消費者物価指数(CPI)の前年比上昇率が5%を上回ったことがなく、特に2010年以降は、2021年にコロナ危機の反動で4.69%を記録するまで0~2%台が長らく続いていたからだ(1980年以降の日米のインフレ率についてはhttps://ecodb.net/exec/trans_country.php?d=PCPIPCH&c1=US&c2=JPを参照)。私が調べた限りでは、WSJで記事を検索すると2021年以前でのshrinkflationの検索件数はわずか4件。『ニューヨーク・タイムズ』紙(NYT)は何とゼロ。それが2022年の1年間でWSJが13件、NYTが8件を検索できた。「流行」とは言わないまでも、インフレ率の急騰に付け込んだ企業行動への風当たりが強まるとともに関心が高まったことは確かで、だからこそ『エコノミスト』はこの語を「今年の言葉」に入れ、『ウェブスター辞典』も新語として追加したのだと思う。

 

Shrinkflationが注目を浴びるきっかけとなったのは2022年7月に放送されたテレビ番組だった(、と私は推測している)。

 

次に紹介するのは11月26日付NYTに掲載された”Meet the Man on a Mission to Expose Sneaky Price Increases(「不正な値上げを暴く使命を担った男」に会う)”という記事からの引用だ。Edgar Dworsky has become the go-to expert on “shrinkflation,” when products or packaging are manipulated so people get less for their money.(製品やパッケージが操作され、人々が同じ金額で買える量が減ってしまう「シュリンクフレーション」。エドガー・ドウォルスキーは事情通として知られるようになった)とのリードがついている。

 

記事4:シュリンクフレーションが注目を浴びたきっかけは「消費者保護運動家」エドガー・ドウォルスキー氏のテレビ出演

With inflation rattling the nation, shrinkflation recently drew the attention of John Oliver, who noted Mr. Dworsky’s quirky TV presence. “News outlets love to cover this, usually with the help of what seems to be the one go-to expert on the topic,” Mr. Oliver said, rolling clips of Mr. Dworsky emphatically listing examples of downsized products like toothpaste and sports drinks.

(インフレが国を揺るがす中、ジョン・オリバー氏が最近になって関心を抱いたのがシュリンクフレーションだ。「報道機関は、この種の話題(注:企業が単なる値上げではなく、製品を小型化して値上げを隠している話題)については、たいていの場合、事情通を呼んで解説してもらうのが大好きだ」と述べて風変わりなドウォースキー氏を番組に登場させ、歯磨き粉やスポーツドリンクなどの小型化された製品の例を力説するビデオを見せた後でこう叫んだ)。

 

“Yeah! You tell ’em, Ed!” Mr. Oliver says. “I love everything about that man.(「そうだ!言ってやれよ、エド!僕はこの男のすべてが好きなんだ」)

 

Mr. Dworsky’s work has received notice in academic circles as well. Joseph Balagtas, a professor of agricultural economics at Purdue University who has studied shrinkflation, said Mr. Dworsky was the only person he was aware of who is documenting the phenomenon.

(”Meet the Man on a Mission to Expose Sneaky Price Increases” by Clare Toeniskoetter. The New York Times. Published Nov. 26, 2022. Updated Dec. 1, 2022)

(ドウォルスキー氏の研究は、学術界でも注目されている。パデュー大学の農業経済学教授でシュリンクフレーションを研究しているジョセフ・バラグタス氏は、この現象を詳細に記録しているのはドウォースキー氏だけだという。)

 

(「不正な値上げを暴く男」 Clare Toeniskoetter『ニューヨーク・タイムズ』初出2022年11月26日。更新2022年12月1日)*有料記事です

https://www.nytimes.com/2022/11/26/climate/fighting-shrinkflation-consumer-products.html?action=click&module=card&pageType=theWeekenderLink

 

実はこのテレビ番組(2022年7月25日放送)はYouTubeで見ることができる。『ラスト ウィーク トゥナイト ウィズ ジョン・オリバー』というケーブルテレビ局HBOの人気番組だ。MCはイギリス人コメディアン兼俳優のジョン・オリバー氏。まじめな議論を面白おかしく解説してくれる。上の記事に関係あるのは1分20秒からで、ドウォルスキー氏も登場しているので是非ご覧いただきたい。なお8分30秒から、魚たちの餌代の高騰に悩む日本の水族館も紹介している(30秒ぐらい))。

番組→https://www.youtube.com/watch?v=MBo4GViDxzc&t=80s

 

ちなみにNYTが掲載したshrinkflationを含む記事8件のうち7件はこの記事だったので、NYTも他メディアに遅ればせながらこの現象に注目したということではないか。なお、同じ記事中で、ドウォルスキー氏の人となりを次のように紹介している。

 

記事5:ドウォルスキー氏の質素な生活

He has dedicated much of his life to exposing what is one of the sneakier tricks in the modern consumer economy: … He writes about shrinkflation in everything — tuna, mayonnaise, ice cream, deodorant, dish soap — alongside other consumer advocacy work on topics like misleading advertising, class-action lawsuits and exaggerated sale claims.

(彼は、現代の消費経済における卑劣な手口の一つを暴くことに人生の大半を捧げてきた。(中略)ツナ、マヨネーズ、アイスクリーム、消臭剤、食器用洗剤など、あらゆるもののシュリンクフレーションについて執筆するほか、ミスリーディングな広告、集団訴訟、誇大広告といったテーマで消費者保護運動にも取り組んでいる)

……

Mr. Dworsky, 71, is a semiretired lawyer whose career began as a market researcher before briefly becoming an on-air consumer reporter for local television alongside a young Bill O’Reilly, the former Fox News personality.

(ドウォースキー氏(71歳)はセミリタイアした弁護士だ。市場調査員としてキャリアをスタートさせ、一時は地元テレビ局で、若き日のビル・オライリー氏(元Foxニュースのパーソナリティ)とともに消費者レポーターとして短期間番組に出演したこともある)。

……

At the height of his career, he worked with the Massachusetts attorney general’s office, on his way to becoming a self-employed consumer advocate and possibly the world’s foremost expert on shrinkflation.

(最盛期にはマサチューセッツ州検事局で働いたが、その後消費者保護活動家として独立し、おそらく世界一のシュリンクフレーションの専門家になった)

……

Mr. Dworsky works seven days a week from his modest, three-bedroom condo in Somerville, where he lives alone. But for him, thrift is more than a job, it’s a lifestyle. He made less than $7,000 last year, mostly from donations and ad revenue. He gets by on Social Security, his state pension and savings.

(”Meet the Man on a Mission to Expose Sneaky Price Increases” by Clare Toeniskoetter. The New York Times. Published Nov. 26, 2022. Updated Dec. 1, 2022)

(ドウォルスキー氏は、ソマービルにある3ベッドルームの質素なマンションに一人暮らしで、1週間に7日、つまり休みを取らずに働いている。しかし、彼にとっては、倹約は仕事というよりライフスタイルだ。昨年の収入は7000ドルにも満たなかったが、そのほとんどは寄付と広告収入によるものだった。社会保障と州年金と貯蓄で生活している)。

 

(「不正な値上げを暴く男」Clare Toeniskoetter『ニューヨーク・タイムズ』初出2022年11月26日。更新2022年12月1日)

https://www.nytimes.com/2022/11/26/climate/fighting-shrinkflation-consumer-products.html?action=click&module=card&pageType=theWeekenderLink

 

実は企業が値段を変えずに「減らす・落とす」のは製品や商品の「量」だけではない。2021年になって、質の低下こそが問題と指摘する声が現れた。

 

2. Skimpflation (「スキンプフレーション」)

2022年10月26日、NPR(米国公共ラジオ放送)の記者グレッグ・ロザルスキー氏は、同局の『プラネット・マネー』というニュースレターでskimpflationという新語を提案した。記事の冒頭で、ウォルト・ディズニー・ワールドでは営業再開後半年たつのに駐車場と「マジック・キングダム」(4つのディズニーパークの内の1つ)(距離約1・6キロ)を結ぶトラムが再開していない事実を、「これはコロナのせいではない。企業の金儲け主義の結果だ」と批判した上で、次のように続ける。

 

記事6:「シュリンクフレーション」と似て非なる新語「スキンプフレーション」

What’s happening in the Magic Kingdom is happening across the entire economy. Domino’s is taking longer to deliver pizzas. Airlines are putting customers who call them on hold for hours. Restaurants, bars and hotels are understaffed and stretched thin. The quality of service seems to be deteriorating everywhere.

(マジック・キングダムで起きていることが、現在は経済全体で起きている。ドミノはピザの配達に時間がかかるようになった。航空会社は、電話をかけてきた客を何時間も待たせている。レストランやバー、ホテルでは人手が足りず余力がなくなっている。サービスの質がどこもかしこも悪化しているようなのだ)。

 

We’ve all heard about rising inflation. The price of stuff is going up. And if you read this newsletter, you’ve heard of shrinkflation. That’s when the price of stuff stays the same, but the amount you get goes down. The economywide decline in service quality that we’re now seeing is something different, and it doesn’t have a good name. It’s a situation where we’re paying the same or more for services, but they kinda suck compared with what they used to be. We propose a new word to describe this stealth-ninja kind of inflation: skimpflation. It’s when, instead of simply raising prices, companies skimp on the goods and services they provide.

(“Meet skimpflation: A reason inflation is worse than the government says it is” by Greg Rosalsky. Planet Money. October 26, 2021)

(「インフレ率の上昇」はもはや誰もが耳にしている。物の値段が上がっているということだ。そして、このレターの読者なら「シュリンクフレーション」という言葉を聞いたことがあると思う。これは、値段は変わらないのに、買って得られた物の量が減ってしまうことだ。今、経済全体で起こっているサービスの質の低下は、それとは似て非なるもので、適当な名前がない。それは、サービスに対してこれまでと同じかそれ以上のお金を払っているにもかかわらず、以前と比べるとなんだかひどいという状況なのだ。この隠れたインフレを表現する新しい言葉として「スキンプフレーション」を提案したい。これは、企業が単に価格を上げるのではなく、提供する商品やサービスの質を減らすことである)。

 

(「スキンプフレーションとの邂逅:インフレが政府の言い分よりひどい理由」 グレッグ・ロザルスキー『プラネット・マネー』2021年10月26日)

https://www.npr.org/sections/money/2021/10/26/1048892388/meet-skimpflation-a-reason-inflation-is-worse-than-the-government-says-it-is

 

この記事の1週間後に、The Washington Post(『ワシントンポスト』)の記者がオピニオン欄でスキンプフレーションの具体例を挙げている。

 

記事7:「スキンプフレーション」の具体例

Skimpflation is the hotel that no longer offers daily housekeeping, or the restaurant that subs a QR code for a paper menu. It’s also the bank that doesn’t employ enough phone operators, leaving you stuck on hold. Or it’s the airline, such as American, that can’t hire back workers fast enough post-covid slowdown, so a weather issue in a hub city throws the lives of thousands of people into chaos.

(“Opinion: American Airlines’ cancellations are a window into why people are so upset with the economy” by Helaine Olen. The Washington Post. November 2, 2021)

 

(スキンプフレーションとは、ホテルが日々のハウスキーピング(客室の清掃、整備、管理)をしなかったり、レストランが紙のメニューをQRコードに置き換えたりしたようなものである。また、銀行が電話オペレーターを十分に揃えていない結果、顧客が待たされてしまうことだ。あるいはアメリカン航空のような航空会社が、コロナショックによる業務縮小後に必要な従業員を十分に補充できず、ハブ空港で天候が悪化すると、何千人もの人々の生活が混乱に陥ることを意味している)。

 

(「オピニオン:アメリカン航空の欠航は、なぜ人々がこれほどまでに経済に憤慨しているのかを知る窓である」Helaine Olen『ワシントン・ポスト』2021年11月2日)

https://www.washingtonpost.com/opinions/2021/11/02/american-airlines-cancellations-skimpflation-economy/

ただし、スキンプフレーションにはシュリンクフレーションにはない問題点がある。

 

実は、上の「記事3:『シュリンクフレーション(shrinkflation)という言葉の起源』で引用したWSJの記事中では「スキンプフレーション」の紹介だけでなく、その問題点も指摘している。

 

記事8:「スキンプフレーション」は定量化できない。

“Shrinkflation” has now been joined by “skimpflation” for the similar phenomenon of prices for services staying the same while consumers get less, as businesses are skimping. Though the term has gained some traction since Greg Rosalsky of NPR’s Planet Money introduced it last October, not everyone is on board. Dean Baker, senior economist at the Center for Economic and Policy Research, argued that while “skimpflation” does “refer to something real in the world,” it may go too far to hype it as a kind of unmeasured inflation. If the deterioration of services eases up, Mr. Baker wonders, will we be reading news reports about “skimpdeflation”?

(‘Stagflation’: When Prices Soar and Growth Slumps:A British politician coined the term for an economic ailment that beset the 1970s and is now threatening a comeback, by Ben Zimmer. Wall Street Journal. June 9, 2022)

 

(「シュリンクフレーション」には今や「スキンプフレーション」という言葉が加わった。これは、企業側が手を抜いて消費者の得るものが少なくなっているのに価格が変わらないという(製品に起きているのと)似た現象を意味している。NPRの『プラネット・マネー』のグレッグ・ロザルスキーが昨年10月に紹介して以来、一定の支持を得ているが、誰もが賛成しているわけではない。アメリカ経済政策研究センターのシニアエコノミスト、ディーン・ベイカー氏は、「スキンプフレーション」は「世の中の現実的なものに言及している」ものの、測定不能なインフレの一種として持ち上げられ過ぎではないか、と主張している。もし、サービスの劣化が緩和されたら、「スキンプデフレーション」についての報道を読むことになるのだろうか、とベイカー氏は疑問を呈する)。

 

(「スタグフレーション=物価高騰と成長鈍化:英国の政治家が作った、1970年代を襲った経済危機を表す造語で、現在では復活の恐れ」Ben Zimmer『ウォール・ストリート・ジャーナル』2022年6月9日)*有料記事です。

https://www.wsj.com/articles/stagflation-when-prices-soar-and-growth-slumps-11654806401?mod=Searchresults_pos5&page=1

 

定量化できない「スキンプフレーション」をどう評価するかという問題は、まだ議論が分かれているようだ。この語が現れてまだ1年弱であることに加えそうした事情もあってか、この語は『ウェブスター辞典』はもちろんのこと、Cambridge Dictionary(『ケンブリッジ英英辞典』)にも、Collins Dictionary(『コリンズ英語辞典』)にも、Macmillan Dictionary(『マクミラン英英辞典』)にも、Dictionary.com にも見当たらなかった(2023年1月19日現在。なお、上のいずれにもshrinkflationは出ていました)。ただし、質を劣化させて値段を変えないという手法はどんな企業でも取り得る手法であって、今後一段と警戒と監視の目が厳しくなるかもしれない。2023年の「今年の言葉」に出ているかもしれない。

 

最後に、ダメ元で引いてみたら次の英和辞書には出ていたので紹介しておこう。

 

記事9:skimpflationを早速掲載していた英和辞典

skimpflation

【名】

スキンプフレーション◆企業が人件費や材料費を節約して商品やサービスの質を低下させながらも、従来と同じ価格を保つ状況。◆【語源】skimp(節約する)+ inflation◆【参考】shrinkflation ; stealthflation ; stealth price hike

https://eow.alc.co.jp/search?q=skimpflation

出所?はい、英辞郎です。当然(?)、shrinkflationも出ていました。

 

記事10:shrinkflationも、もちろん掲載

shrinkflation

【名】

シュリンクフレーション◆食品製造業者が商品の量を減らし(またはサイズを小さくして)、以前と同じ(またはそれ以上の)価格で売ること。消費者から見ると、値上げになる。◆【語源】shrink(縮ませる・減らす)+ inflation◆【同】stealth price hike

https://eow.alc.co.jp/search?q=shrinkflation

 

念のため、私はアルク社の回し者ではありません。

ではまた来月!

 

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ビジネスに役立つ経済金融英語 第6回:今さら聞けない(?)COP26の基礎の基礎 - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社
Sorry Millennials, your time in the limelight is over. Make way for the new kids on the block - Generation Z – a generational cohort born between 1995 and 2009, andlarger in size than the Millennials (1980-1994). (2018年6月、Barclays Research Highlights: Sustainable & Thematic Investing)(ごめんね、ミレニアル。君たちが脚光を浴びる時代は終わった。新顔に道を譲りたまえ。1995年から2009年に生まれて、君たち(1980~1994年生)よりも規模が大きい、「ジェネレーションZ」にね)(本稿の翻訳と下線はす...
ビジネスに役立つ経済金融英語 第5回:Generation Z(「ジェネレーションZ」/「Z... - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社
「アベノミクス」「黒田バズーカ」という言葉がはやり始めた8年ほど前から、デフレ、リフレ、ディスインフレなど似たような言葉が次々と出てきて混乱する向きもあるのではないか。そこで前回は、その中で多くの人が最も冷や汗をかきそうな「リフレーション」を取り上げた。おさらいしておくと、リフレーションには二つの意味がある。  需要を刺激し経済活動を拡大してデフレーションを克服するための政府および中央銀行による財政/金融政策のこと。 景気後退期の直後、すなわち景気回復の初期の局面で、ほどほどのインフレ率と...
ビジネスに役立つ経済金融英語 第4回:インフレ、デフレ、ディスインフレ - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社
最近は「リフレ」とか「リフレトレード」という言葉を耳にして「そうですねえ・・・」と相手の調子に合わせつつ目が泳いだり冷や汗をかいたりした方も多いのでは? この言葉が分かりにくいのは、①経済状況とその経済状況を実現する政策の両面で使われることが多い、②最近は新型コロナウイルス危機からの復興を目指す政策の意味で使われることも多く、使われ方が曖昧になっている、③そもそもメディアや学者によって明確に定義されていない(らしい)、したがって④「リフレトレード」とは、何を目指しているのか、どういう取引なの...
ビジネスに役立つ経済金融英語 第3回:リフレーション  - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社
Nothing lasts forever — not even a stock market that keeps going up, up and up.This week, just days after its 11-year anniversary, investors unceremoniously said goodbye to the longest-running bull market in history.Then the bears took over.鈴木訳:この世に永遠に続くものなど何もない――上げに上げている株式市場であっても。今週、11年目の記念日を祝ったわずか数日後に、史上最長を記録した上昇相場に投資家たちはあっさりと別れを告げたのだ。そして下げ相場が後を引き継いだ。(”Stocks Enter Bear Market. Wha...
ビジネスに役立つ経済金融英語 第2回:「調整」「下げ相場」と「ドローダウン」  - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社
第1回は比較的軽い話題から。ダウ・ジョーンズ工業株価平均® (Dow Jones Industrial Average:ダウ平均)とS&P500種株価指数(S&P 500®)の、意外と知られていない特徴をご紹介する。両指数を算出、提供しているのは同一会社である。元々は由来、提供会社ともに異なっていたが、業者の合従連衡が進み、2012年にS&Pインデックス社とダウ・ジョーンズ・インデックス社が統合してS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社が設立されたi。ダウ平均の構成銘柄数はわずか30銘柄と、ニューヨーク取引所(2,873銘柄、時価総額約2,8...
ビジネスに役立つ経済金融英語 第1回:米国株式って「ダウ」のこと? 株式指数をめ... - ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社

著者について

鈴木 立哉

鈴木 立哉

金融翻訳者。一橋大学社会学部卒。米コロンビア大学ビジネススクール修了。野村證券勤務などを経て2002年に独立。現在は主にマクロ経済や金融分野のレポート、契約書などの英日翻訳を手がける。訳書に『フリーダム・インク』(英治出版)、『ベンチャーキャピタル全史』(新潮社)、『「顧客愛」というパーパス<NPS3.0>』(プレジデント社) 、『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(英治出版)など。著書に『金融英語の基礎と応用 すぐに役立つ表現・文例1300』(講談社)。ブログ「金融翻訳者の日記」( https://tbest.hatenablog.com/ )を更新中。

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