May 29th, 2023

ビジネスに役立つ経済金融英語 第21回 Digital Bank Run、Silent Bank Run、そして・・・


今年3月10日のシリコンバレーバンク(資産規模で全米16位の地銀)の経営破綻をきっかけに一気に注目度が高まったDigital Bank Run(デジタル・バンク・ラン)とSilent Bank Run(サイレント・バンク・ラン)。Googleの検索件数でみるとDigital Bank Runが16,200件、Silent Bank Runが10,600件とどちらもかなり広がっているが、日本語で見ると「デジタル・バンク・ラン」の4,030件に対し、「サイレント・バンク・ラン」はわずか18 件(いずれも5月27日午後調べ)なので、日本では今のところ「デジタル・バンク・ラン」として通用しているとみてよいだろう(なお二つの英語に対する訳語はカタカナ語しか見つかっていない)。どちらも「デジタルを通じた取り付け騒ぎ」という意味で、英語ではほぼ同じ意味と考えてよさそうだが実は微妙に意味が異なる。今月はこの二つの言葉をめぐる話題を取り上げる。

 

まずは、あの怒涛の日々を振り返っておこう。

 

1. シリコンバレー銀行破綻から、欧米の金融市場を揺らした10日間

3月8日(水):
SVBファイナンシャル・グループ傘下のシリコンバレーバンク(SVB)が増加する銀行引き出し(鈴木:後述する)に応じるために保有資産を売却したところ18億ドルの損失を計上したと発表。

3月9日(木):
SVBファイナンシャル・グループの株価が暴落。下落率は60%に達した。アメリカの4大銀行(シティグループ、JPモルガン、ウェルズ・ファーゴ、バンク・オブ・アメリカ)の株価も急落し、4行合計で時価総額が520億ドル(7兆1400億円)減少した。

3月10日(金):
シリコンバレーバンクが経営破綻。

3月12日(日):
米財務省と米連邦準備理事会(FRB)、米連邦預金保険公社(FDIC)が共同声明を発表し、SVBの預金の全額保護を承認。

3月12日(日):
ニューヨーク州金融監督当局が、同州地盤の米銀シグネチャー・バンクの事業を同日付で停止したと発表。資産規模で全米29位のシグネチャー・バンクは米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に入り、預金は全額保護。

3月13日(月)~15日(水):
欧州株式市場で銀行株の下落が続いている。SVBの破綻の契機となった債券の含み損への警戒が、欧州の銀行にも広がったため。スイスの金融大手、クレディ・スイス・グループが過去最安値を更新、フランスのソシエテ・ジェネラル、BNパリバ、ドイツのドイチェ・バンクなどが下落。

3月16日(木):
クレディ・スイス・グループは、スイス国立銀行(中央銀行)から最大500億スイスフラン(約7兆1000億円)を調達する用意があると発表。

3月20日(月):
UBS、クレディ・スイスの買収を発表。

(その後の主な動き)

4月7日(金):
ファースト・リパブリック・バンク(FRC:資産規模で全米14位の地銀)が優先株の四半期配当を停止すると発表。株価は3月初めからの株価下落率が約90%へ。

4月24日(月):
FRC、3月の預金引き出し額が約1,000億ドルであったことを発表。

5月1日(月):
経営の懸念が高まっていたFRCが経営破綻し、預金と資産を大手銀行のJPモルガン・チェースが買収すると米金融当局が発表。

 

*以上は、主に次の二つの記事を参考にした(いずれも有料記事です)。

①シリコンバレー銀行破綻、金融市場を揺らした1週間(2023年3月17日付日本経済新聞電子版)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB16BFC0W3A310C2000000/

②The Banking Crisis: A Timeline of Key Events By Candice Choi, The Wall Street Journal, Updated May 11, 2023(「銀行危機:主要イベントのタイムライン」 キャンディス・チョイ、ウォールストリート・ジャーナル紙、2023年5月23日更新)

https://www.wsj.com/articles/bank-collapse-crisis-timeline-724f6458?mod=Searchresults_pos2&page=1

 

2.取り付け(騒ぎ)(=バンク・ラン)とは

信用不安などが起きたときに、預金者が一斉に銀行に押し寄せて預金の引き出しをすることを「取り付け騒ぎ」いう。英語ではbank runまたはrun on a bank。英語をそのままカタカナにした「バンク・ラン」という表現もよく見られる。次の『日本大百科全書』(ニッポニカ)の記事は非常にわかりやすい(本稿における辞書や記事の翻訳、太線、下線、注などの挿入は、特に断りのない限りすべて鈴木)

 

記事1:取り付け(騒ぎ)(=バンク・ラン)とは

バンク・ラン

信用不安などによって金融機関で起きる取り付け騒ぎのこと。預貯金者が一斉に銀行などの金融機関へ走り、預貯金を引き出そうとして(取り付け)窓口に殺到することから、バンク・ランとよばれる。金融機関の経営不振情報をきっかけに起きることが多く、ある金融機関でバンク・ランが生じると、その金融機関と取引のある別の金融機関へも不信が伝播 (でんぱ) し、ドミノ倒しのようにバンク・ランが広がる金融システム不安に発展することがある。1929年の世界恐慌、1927年(昭和2)に片岡直温 (なおはる) 大蔵大臣の失言をきっかけに広がった昭和金融恐慌のほか、バブル経済崩壊後の1995年(平成7)以降の日本の金融危機、2007年のサブプライムローン問題をきっかけとする世界的な金融危機、2009年以降のヨーロッパ債務危機などの際に、世界各地でバンク・ランが生じた。

(『日本大百科全書(ニッポニカ)』by JapanKnowledge Personal ©SHOGAKUKAN Inc.)

 

私(1960年生)が鮮明に覚えているのは1997年11月に三洋証券(3日)、北海道拓殖銀行(17日)、そして山一証券(24日)の経営破綻が起こった時だ。当時のテレビニュースやその後何度か放映されたドキュメント番組で、預金者や投資家が各社の店頭に押し寄せて社員が対応に追われているシーンが流れたのを覚えている方も多いと思う。

 

3.デジタル/サイレント・バンク・ランのすさまじさ

しかし今年3月10日に経営破綻に追い込まれた米国シリコンバレーバンク(SVB)の取り付け騒ぎは我々になじみのある「それ」とは全く異なる様相を呈した。同行破綻の直接的な原因は、破綻前日、9日の昼前から加速したSVBからのスマホを通じた預金引き出しの加速であったといわれる。「デジタル・バンク・ラン(Digital Bank run)」、あるいは「サイレント・バンク・ラン(Silent Bank run)」と呼ばれる取り付け騒ぎのすさまじさを伝えるのが次の二つの記事だ。

記事2:1秒間に100万ドルが引き出される

Silicon Valley Bank (SVB) suffered the largest and fastest bank run in history: Customers withdrew $42 billion in a single day from SVB, leaving the bank with $1 billion in negative cash balance. That’s $4.2 billion an hour, or more than $1 million per second for ten hours straight. To understand the extent of this event, the previous largest bank run in modern U.S. history took place at Washington Mutual in 2008, which totaled $16.7 billion over the course of 10 days.

(シリコンバレーバンク (SVB) が、史上最大かつ最速での取り付けに見舞われた。顧客はたった1日で420億ドルの預金を引き出し、現金残高が10億ドル不足する事態となった。これは1時間当たり42億ドル、10時間連続で毎秒100万ドル以上が引き出された計算になる。ちなみに、現代アメリカ史上で前回に起きた最大の銀行取り付け騒ぎは2008年のワシントン・ミューチュアルの事例で、当時の引き出し額は10日間で総額167億ドルだった)

“How Blockchain Technology Could Prevent Bank Runs” by Merav Ozair. May 1, 2023(「ブロックチェーン技術は取り付け騒ぎをどう防げるのか」メラヴ・オザイール2023年5月1日)

https://www.nasdaq.com/articles/how-blockchain-technology-could-prevent-bank-runs

 

記事3:ツイッターの拡散に押されてたった2日で経営破綻

“If you see a bomb disposal expert running down the street, don’t ask them what’s happened, just try to keep up,”(「もし爆弾処理の専門家が通りを走っているのを見たら、何が起きたか尋ねるのではなく、すぐに一緒に逃げるべきだ」)

(中略)

The collapse of SVB was the second-largest bank failure in the history of the United States. The largest, Washington Mutual in 2008, took place over the course of eight months. SVB’s collapse played out in barely two days.(SVBの破綻は、米国史上2番目に大きな銀行破綻だった。最大のものは2008年のワシントン・ミューチュアルで、破綻まで8カ月かかった。SVBの崩壊はわずか2日で起きた。

 

Anxious Twitter posts and WhatsApp exchanges, coupled with the ease of access that online banking provides, are seen by analysts as a serious catalyst for the current crisis. Experts suggest that in the social media age, the psychological behaviour behind a bank run – mass fear from depositors of losing their savings – may be amplified and go viral quicker than bank officers and regulators can successfully respond.(不安でピリピリしたツイッター投稿やワッツアップ(チャット用アプリ)による情報交換は、オンライン・バンキングが提供するアクセスの容易さと相まって、現在の危機の深刻な触媒であるとアナリストは見ている。専門家によると、ソーシャルメディア時代には、銀行幹部や規制当局がうまく対応する前に、バンク・ランの背後にある心理的行動 (預金者が貯金を失うことへの集団恐怖) に拍車がかかり、急速に拡散する可能性があるという)

 

Michael Imerman, a professor at the Paul Merage School of Business at the University of California-Irvine, says that what happened to SVB was, “a bank sprint, not a bank run, and social media played a central role in that.”(カリフォルニア・アーバイン大学ポールメレッジ・ビジネススクールのマイケル・イマーマン教授は、SVBに起こったことは「バンク・ランではなくバンク・スプリント(訳注:単に走った(run)のではなく、短距離を全速力で走った(sprint)、つまり預金の引き出しがあまりにも速かったこと)であり、ソーシャルメディアがその中心的役割を果たした」と述べている)

(以下略)

‘The first Twitter-fuelled bank run’: how social media compounded SVB’s collapse” by Jonathan Yerushalmy. The Observer. The Guardian. 16 Mar 2023(「ツイッターが拍車をかけた最初のバンク・ラン:ソーシャルメディアがSVBの崩壊をいかに悪化させたか」ジョナサン・イェルシャルミー ガーディアン紙。2023年3月16日)

https://www.theguardian.com/business/2023/mar/16/the-first-twitter-fuelled-bank-run-how-social-media-compounded-svbs-collapse

 

 

 

4.デジタル/サイレント・バンク・ランの特徴

デジタル・バンク・ランの特徴の一つは、銀行の営業時間と関係なく一気に進むという点だ。

 

記事4:「いまや取り付け騒ぎは夜中でも起きる」

3月8日(水)にSVBは保有している証券に18億ドル(約2300億円)の損失が生じたと認め、翌週以降に資本増強に踏み切ると発表した。この発表が預金者の不安心理に火を付けた。米著名起業家ピーター・ティール氏が取引先企業にSVBからの預金引き揚げを提言した。そんな話が翌9日(木)にはSNS(交流サイト)を駆け巡った。SVBからは9日だけで預金残高の4分の1近い420億ドル(約5.5兆円)が引き出され、払い戻せる資金が完全に底を突いた。

 

経営不安の情報拡散の舞台となったSNS、ワンクリックで大量の資金を移動できるネットバンキング。しかもSVBのネットバンキングは預金者のアクセス集中でダウンした。こうなると預金者は不安の渦のなかである。今や取り付けは銀行窓口ではなく、SNSで起きる。しかも24時間いつでも、銀行や当局が資金の工面のしようがない夜中にも。いかにもSNS時代の銀行破綻に、FRBなど銀行監督当局は全く追いついていなかった。

(「クレディ・スイスを瞬殺しかけた「SNS時代の銀行破綻」の新しさと既視感」滝田洋一 2023年4月4日、新潮社Foresight)

https://www.fsight.jp/articles/-/49668

 

金融関係の用語を説明してくれるInvestopediaでは、サイレント・バンク・ランの定義が示されている。

 

記事5:物理的に銀行を訪れることなく一気に資金を引き出せる

What Is a Silent Bank Run? Definition and Examples

A silent bank run is when depositors, worried about a bank’s solvency, withdraw funds simultaneously without physically entering the bank. Silent bank runs are similar to normal bank runs, except funds are withdrawn via electronic fund transfers, wire transfers, and other methods that do not require physical withdrawals of cash. Most bank runs these days are silent bank runs.

 

サイレント・バンク・ランとは? 定義と例

サイレント・バンク・ランとは、銀行の支払能力を心配した預金者が、物理的に銀行を訪れることなく同時に資金を引き出すことである。サイレント・バンク・ランは通常の取り付け(バンク・ラン)と似ているが、電子送金や電信送金など、現金の物理的な引き出しを必要としない方法で資金を引き出す点が異なる。最近のバンク・ランはほとんどがサイレント・バンク・ランである)

(Investopedia)

https://www.investopedia.com/terms/s/silent-bank-run.asp

 

記事6:ネットを通じた新たな預金取り付け

「サイレント・バンク・ラン」という新型の預金流出…国際的な銀行規制強化は難題だ

 

米地銀の預金流出が止まらない。発火点となったのは3月10日のカリフォルニア州「シリコンバレー銀行(SVB)」の経営破綻だ。同行は増資失敗報道直後の9日に経営危機がツイッターで拡散され、わずか1日で5兆円強、全預金の4分の1が一気に引き出された。ネット時代を象徴するような取り付け破綻で、金融当局の対応も追い付かなかった。

 

シリコンバレー銀行の破綻は、さらにネットを通じて新たな預金取り付けへと連鎖していった。同行が破綻した2日後には暗号資産(仮想通貨)企業を主取引層にするシグネチャー銀行が経営破綻した。資産規模で全米29位の中堅銀行だ。相次ぐ銀行の破綻、それもネットを通じた金融不安の伝播に市場は動揺した。

 

この預金流出は「デジタル・バンク・ラン」や「サイレント・バンク・ラン」と米国で呼称され始めた。

 

(以下略)

 

(「サイレント・バンク・ラン」という新型の預金流出…国際的な銀行規制強化は難題だ) 小林桂樹、2023年4月29日、日刊ゲンダイDigital)

https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/322304

 

「ワンクリックで大量の資金を移動できるネットバンキング」を利用して「24時間いつでも、銀行や当局が資金の工面のしようがない夜中にも」起きる取り付け騒ぎ(バンク・ラン)こそが、「デジタル・バンク・ラン」と言われるゆえんだろう。

 

5.デジタル・バンク・ランと似て非なるサイレント・バンク・ラン

これまでのところ、英語でも日本語でも「デジタル・バンク・ラン」も「サイレント・バンク・ラン」も同じような意味の言葉として使われているようだ。が、次の記事は「サイレント」に重きを置いて今回の事件を説明している(下線は鈴木)。

 

記事7:静かな(サイレントな)銀行引き出し

The Silent Bank Run

Long before Silicon Valley Bank failed, the banking sector was experiencing a silent bank run. Unlike the Great Depression, where lines of people clamoring for their money were blocks long, this silent bank run, as its name portends, has been out of sight until recently. There are a couple of reasons for this. First, online banking allows for split-second transfers from one bank to another bank or financial institution. Second, unlike the Depression, this silent bank run has been gradual and lacks media coverage.(シリコンバレー銀行が破綻するずっと前から、銀行業界は静かな取り付け騒ぎ(サイレント・バンク・ラン)を経験していた。現金を求める人々の列が何ブロックにもわたって続いた大恐慌とは異なり、このサイレント・バンク・ランはその名の通り、最近まで目にすることがなかったものである。これにはいくつかの理由がある。まず、オンライン・バンキングでは、ある銀行から別の銀行や金融機関への瞬時の送金が可能である。第二に、大恐慌とは異なり、この静かな取り付け(サイレント・バンク・ラン)は緩やかなもので、メディアに報道されることがない

 

Until the last week, the silent bank run has not been about solvency concerns such as the Depression. Instead, customers moved money from banks to higher-yielding options outside the banking sector. The graph below from Pictet Asset Management shows that money market assets and domestic bank deposits have trended in opposite directions since the Fed started hiking interest rates. As a result of the silent bank run, banks must tighten lending standards and sell assets. This is already happening. To wit: “The primary loan market feels like a Scooby Doo ghost town – recently deserted and a bit haunted.” – Scott Macklin -AllianceBernstein. Because the economy heavily depends on increasing amounts of credit to grow, this silent bank run will likely lead to a recession.(先週まで、サイレント・バンク・ランは、大恐慌のような支払能力の懸念に関するものではなく、顧客は銀行から銀行以外の高利回り商品に資金を移していたのである。ピクテ・アセット・マネジメントによる下のグラフは、FRBが利上げを開始して以来、短期金融市場の資産と国内銀行預金が逆方向に推移していることを示している。この静かな預金引き出し(サイレント・バンク・ラン)が起きると、銀行は貸出基準を厳しくし、資産を売却しなければならない。そしてこれはすでに起こっている。「プライマリーローン市場はスクービードゥーに出てくる廃墟のように感じられる-最近は閑古鳥が鳴いていて、人けがなく、少し幽霊が出そうな雰囲気だ」(アライアンス・バーンスタイン(アクティブ運用専門の資産運用会社)のスコット・マクリン氏)。経済は信用の増加に大きく依存して成長しているため、このサイレント・バンク・ランは不況につながる可能性が高い

アメリカの人気アニメシリーズ

“The Silent Bank Run” By Michael Lebowitz and Lance Roberts, RIA, March 22, 2023

(「サイレント・バンク・ラン」マイケル・レボヴィッツ、ランス・ロバーツ、RIA、2023年3月23日)

https://realinvestmentadvice.com/the-silent-bank-run/

 

記事7のグラフは、2022年3月に利上げが始まって以降、米国では預金残高が減少してマネーマーケットファンド(国債やCPなど安全性の高い運用を行う投資信託)が増加している事実を示している。つまり、顧客の預金引き出しは昨年3月、つまりFRBの利上げ開始以降、業界全体のトレンドになっていたと言えそうなのだ。しかしよく考えてみてほしい。こういう静かな、長期間にわたる預金引き出しを「バンク・ラン」(取り付け騒ぎ)と呼べるのだろうか?

本稿の冒頭「1.  シリコンバレー銀行破綻から、欧米の金融市場を揺らした10日間」の3月8日の項をもう一度ご覧いただきたい。今回のデジタル・バンク・ランのきっかけは何だったのか?この部分はウォールストリート・ジャーナルの記事を参照して書いたので、該当部分を引用する。

 

記事8:静かな預金引き出しはすでに始まっていた

March 8: Silicon Valley Bank announces it would book a $1.8 billion loss after selling some of its investments to cover increasing withdrawals. The bank says client cash burn has remained elevated.(3月8日:シリコンバレー・バンクは、増加する預金の引き出しに応じるために投資の一部を売却し、18億ドルの損失を計上すると発表した。同行によると、顧客による預金の引き出しは高水準が続いている。)

 

“The Banking Crisis: A Timeline of Key Events” By Candice Choi. The Wall Street Journal. Updated May 11, 2023(「銀行危機:主要イベントのタイムライン」 キャンディス・チョイ、ウォールストリート・ジャーナル紙、2023年5月23日更新)

https://www.wsj.com/articles/bank-collapse-crisis-timeline-724f6458?mod=Searchresults_pos2&page=1

 

そう、同行も預金者による銀行預金の引き出し傾向をすでに知っていたのだろう。SVBの場合、3月8日以降のバンク・ラン(取り付け騒ぎ)が経営破綻の引き金になったことは事実だ。しかし同行は、それ以前から続いていた(はず)の預金引き出しの原因を究明し問題解決を図ろうとしなかったことが、経営破綻の本当の原因であったのだ。現在指摘されているのは、負債(銀行預金:短期負債)の投資先が長期債に偏っていた、という点だ(短期負債返却の資金繰り逼迫→債券売却→莫大な損失計上→取り付け騒ぎ)。では、3月8日以前の預金引き出しは何と呼ぶのが適切か?

 

 

6.静かな預金引き出し=「デジタル・バンク・ウォーク(Digital Bank Walk)」

そう思ってさらに調べてみると、Naz Koont(ナッツ・クーント、コロンビア大学ビジネススクール博士課程)、Tano Santos(タノ・サントス、コロンビア大学ビジネススクール教授)、Luigi Zingales(ルイジ・ジンガレス:シカゴ大学ビジネススクール教授)の3人が、この4月に、シカゴ大学ビジネススクールが研究者らに提供している発表媒体で共同論文を発表していたことがわかった。

 

記事9:本当に怖いのは「デジタル・バンク・ウォーク」①

From April 2022, when the Fed started increasing interest rates, $860 billion of bank deposits disappeared, most likely moved by individuals into higher-yielding money market funds. Two-thirds of that move occurred before the collapse of SVB. It is a silent walk that cannot be stopped by any deposit insurance and that will undermine the stability of the banking system in the months to come.(FRBが金利を引き上げ始めた2022年4月以降、8600億ドルの銀行預金が消えたが、これは個人が高利回りのマネー・マーケット・ファンドに移した可能性が高い。そしてその2/3はSVBが破綻する前に起きていた。これは、いかなる預金保険でも止めることができず、今後数カ月の銀行システムの安定性を損なうことになる、無言の逃避である。)

 

After the collapse of Silicon Valley Bank (SVB), many commentators have pointed fingers at social media, responsible for accelerating the bank run that killed SVB. Less attention has been dedicated to the role mobile banking has played not only in SVB’s bank run but also in the preceding massive exodus of deposits from the banking sector. While this exodus of funds from banks took place more slowly — more akin to a bank walk than a bank run— it is equally, if not more, momentous for the banking system.(シリコンバレー・バンク (SVB) の破綻後、多くのコメンテーターがSVBを死に至らしめたバンク・ラン(取り付け騒ぎ)を加速させた張本人としてソーシャルメディアを非難した。SVBのバンク・ランだけでなく、それに先立つ銀行部門からの預金の大量流出においても、モバイルバンキングが果たした役割はあまり注目されていない。このような銀行からの資金流出は、「バンク・ラン」というよりは「バンク・ウォーク」に近い、ゆっくりとしたペースで行われた。とはいえ、このバンク・ウォークは、銀行システムにとってバンク・ランと同様に、あるいはそれ以上に重大な出来事である)

(以下略)

“Destabilizing Digital “Bank Walks” by Naz Koont, Tano Santos, Luigi Zingales. Promarket. April 4, 2023(「金融システムの波乱要因となるデジタル「バンク・ウォーク」 ナッツ・クーント、タノ・サントス、ルイジ・ジンガレス、2023年4月4日、『プロマーケット』)

https://www.promarket.org/2023/04/04/destabilizing-digital-bank-walks/

 

この論文は、モバイル(つまりデジタル)バンキングの発達によって、預金者が金融機関間の資金移動を簡単にできるようになった結果、「デジタル・バンク・ウォーク」の果たす役割が大きくなったと指摘。その上で、一定の条件の下に銀行業務をデジタル・バンクと非デジタル・バンクに分離し、モバイル・バンキング(銀行業務)が発達した結果、昨年の利上げ以降、デジタル・バンクの預金残高が低下傾向にあったのに対し、非デジタル・バンクの残高は「むしろ増えていた」事実を指摘している。用いられたグラフだけ下に掲載する(赤の実線がデジタル・バンクのコア預金残高、緑の点線が非デジタル・バンクのコア預金残高。出所は記事9に同じ。詳しい定義等は論文を参照されたい)。

 

(記事9に掲載された図表)

FIGURE 1

出所:“Destabilizing Digital “Bank Walks” by NAZ KOONT,TANO SANTOS, LUIGI ZINGALES April 4, 2023 Promarket(「金融システムの波乱要因となるデジタル「バンク・ウォーク」 ナッツ・クーント、タノ・サントス、ルイジ・ジンガレス、2023年4月4日、『プロマーケット』)
https://www.promarket.org/2023/04/04/destabilizing-digital-bank-walks/

 

この論文を受けてバンク・ウォークを明確に定義したのが次の記事だ。

 

記事10:本当に怖いのは「デジタル・バンク・ウォーク」②

Explaining ‘Bank Walks’ — Study Assesses How They Might Affect Credit(「バンク・ウォーク」が銀行の信用に与える影響を考察する)

 

What Are ‘Bank Walks’?

Bank walks, so called by analysts due to their slow action when compared to bank runs, are slow movements of deposits caused by the constant search for higher yields. According to an ongoing study titled “Destabilizing Digital Bank Walks,” they “cannot be stopped by any deposit insurance and that will undermine the stability of the banking system in the months to come.”
「バンク・ウォーク」 とは何か

バンク・ウォークとは、高い利回りを求め続けることで生じる預金の緩やかな動きである。銀行の取り付け騒ぎ(バンク・ラン)よりもスピードが遅いためアナリストには「(バンク)ウォーク」と呼ばれている。「デジタル・バンク・ウォークの不安定化」(記事9のこと) と題された進行中の研究によると、これらは 「いかなる預金保険によっても阻止されることはなく、今後数カ月の銀行システムの安定性を損なうだろう」 という)。

 

The study remarks that regulators often consider deposits as sticky, meaning they are composed of the savings of depositors, and don’t move often. This means that banks can put part of these deposits into treasuries of a determined maturity. However, the study found that these deposits, as a consequence of digital banking, are not so sticky as they were once considered, and can move around the financial system freely.

(そして、規制当局は預金を粘着性の高いもの、つまり預金者の貯蓄で構成され、あまり動かされることがない、とみなすことが多い、と述べている。これは、銀行がこれらの預金の一部を満期の決まった国債に投資できることを意味する。ところが、デジタルバンキングの結果として、これらの預金はかつて考えられていたほど粘着性がなく、金融システム内を自由に動き回ることができることがわかったのである)。

(以下略)

 

Explaining ‘Bank Walks’ — Study Assesses How They Might Affect Credit(「バンク・ウォーク」が銀行の信用に与える影響を考察する)

https://cryptonews.net/news/finance/20796214/

 

最後に、シリコンバレーバンクから2か月後に経営破綻したファースト・リパブリック・バンク(FRC)を招いて5月17日に行われた公聴会に関する記事を紹介する。

記事11:悪いのはバンク・ランだったのか!?

【ニューヨーク=斉藤雄太】米議会下院の金融サービス委員会は17日、相次ぎ経営破綻した米地銀の旧経営陣を招き公聴会を開いた。1日に破綻したファースト・リパブリック・バンク(FRC)のマイケル・ロフラー前最高経営責任者(CEO)は「パニックに陥ると信頼を回復するのは本当に難しい」と述べ、急速な預金流出や株価下落に対処しきれなかった無念さをにじませた。

(中略)

ロフラー氏は公聴会で、SVBとシグネチャー銀の破綻について「その速さや銀行業界に与えるインパクトの大きさをFRCの誰も予測できなかった」と語った。「地銀の健全性に関するパニックは伝統的なメディアやSNS(交流サイト)を通じて増幅され、1000億ドル(約13.7兆円)以上の預金がFRCから引き出された」と訴えた。

(以下略)

 

(「米地銀FRC前トップ「SNSがパニック増幅」 米公聴会」 2023年5月18日付日本経済新聞電子版)*有料記事です。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN17E7R0X10C23A5000000/

 

前CEOの言うように、同行が倒れる引き金となったのは確かにSNSだったのだろう。しかし経営のミスを予兆させる預金者の反応は、もっと早くから行内データに現れていたはずだ。

 

デジタル/サイレント・バンク・ランは、すでに倒れ掛かっている大木への「最後の一押し」に過ぎず、銀行の経営状態を観測するにはデジタル・バンク・ウォークに注目すべきなのではないだろうか。

 

「(デジタル)バンク・ウォーク」は、検索した限りでは日本語にはまだ見当たらないようだ(少なくとも私は見つけられなかった)。今後この言葉が日本のマスコミをにぎわす日が来る日も遠くないかも。ご注意を!

ではまた来月!

 

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